双極性障害の退院支援 再発予防と段階的復職のポイント
看護師国家試験 第106回 午前 第111問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん(38歳、男性、会社員)。両親と3人暮らし。25歳のころに双極性障害( bipolar disorder )と診断された。3か月前から気分が落ち込み夜も眠れず、食欲もなくなり仕事を休むことが多くなってきた。無力感を感じるようになり、休職して精神科病棟に任意入院した。入院後は1日中ベッドで横になって過ごし、他の患者との交流もみられない。看護師が話しかけても簡単な返事をするだけで無表情である。食事は病室で摂取しており、摂取量は少ない。 入院後3か月が経過した。Aさんは気分が安定し、食事も全量摂取できるようになり、日中は作業療法に週4日参加している。「もう死にたい気持ちはなくなりました。でも、まだ短時間しか新聞を読めないので、仕事に戻るのが不安です」と話している。 Aさんの退院に向けた支援として適切なのはどれか。2つ選べ。
- 1.転職を勧める。
- 2.上司との面会を設定する。
- 3.再発のサインを一緒に見つける。
- 4.自信が持てるようになるまで待つ。
- 5.作業療法に集中力を高めるプログラムを入れる。
対話形式の解説
博士
今回は双極性障害で入院したAさんの退院支援について考えるのじゃ。抑うつエピソードから回復しつつある時期にどんな援助が適切か、という問題じゃな。
サクラ
双極性障害って、気分が上がったり下がったりするあの病気ですよね。
博士
その通り。躁状態と抑うつ状態を繰り返すのが特徴で、再発率が非常に高い疾患なのじゃ。生涯で90%以上が再発するとも言われておる。
サクラ
そんなに高いんですか。じゃあ退院前に一番大事なのは何ですか。
博士
ズバリ「再発予防」じゃ。特に本人が自分の前駆症状に気づけるかが鍵になる。眠れなくなった、買い物が増えた、口数が減った…そういう変化を一緒に振り返って「再発のサイン」として言語化しておくのじゃ。
サクラ
なるほど、だから選択肢3の「再発のサインを一緒に見つける」が正解の一つなんですね。
博士
その通り。これはセルフモニタリングと呼ばれる重要な看護介入じゃ。では2つ目の正解はどれじゃと思う?
サクラ
うーん、Aさんは「新聞が短時間しか読めない」って言っているから、集中力を鍛えるプログラムですか?
博士
素晴らしい!本人が自覚しておる課題に直接アプローチするのが5の「作業療法に集中力を高めるプログラムを入れる」じゃ。復職に向けた機能回復トレーニングになるのう。
サクラ
じゃあ、転職を勧めるのはダメなんですか?環境を変えた方が良さそうな気もしますが。
博士
回復期に大きな環境変化を与えるのは禁物じゃ。新しい人間関係や業務習得のストレスで、症状が再燃することが多い。復職支援は慣れた環境に段階的に戻るのが原則じゃよ。
サクラ
上司との面会も早いってことですか?
博士
そうじゃ。復職への不安が強い時期に上司と顔を合わせると、評価される不安や焦りが出やすい。まずは主治医や産業医、リワークプログラムなどを経て、段階的に進めるのじゃ。
サクラ
「自信が持てるまで待つ」も不適切ですよね。待つだけだと何も変わらない。
博士
その通り。看護は「待つ」だけでなく「成功体験を積めるよう段階的に関わる」のが仕事じゃ。放置と見守りは違うからのう。
サクラ
双極性障害の薬物療法って、どんなものがあるんでしたっけ。
博士
リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなどの気分安定薬が基本じゃ。リチウムは有効域が狭いので血中濃度モニタリングが必要という点も国試頻出じゃ。
サクラ
なるほど、薬の継続と再発予防教育、両輪で支えるんですね。
POINT
双極性障害は再発率の高い慢性疾患であり、退院支援の中心は「再発予防」と「社会復帰に向けた具体的準備」です。本問では、本人と一緒に再発のサイン(前駆症状)を特定するセルフモニタリング教育と、自覚している集中力の低下に焦点を当てた作業療法プログラムの導入が正解となります。一方、環境の大きな変化を促す転職や、不安の強い時期での上司面会、受動的に「待つ」姿勢は、いずれも再発リスクを高めたり支援を停滞させるため不適切です。双極性障害の看護では、気分安定薬の継続支援と心理教育、ライフチャートなどを活用した自己管理能力の獲得が重要となります。
解答・解説
正解は 3 ・ 5 です
問題文:Aさん(38歳、男性、会社員)。両親と3人暮らし。25歳のころに双極性障害( bipolar disorder )と診断された。3か月前から気分が落ち込み夜も眠れず、食欲もなくなり仕事を休むことが多くなってきた。無力感を感じるようになり、休職して精神科病棟に任意入院した。入院後は1日中ベッドで横になって過ごし、他の患者との交流もみられない。看護師が話しかけても簡単な返事をするだけで無表情である。食事は病室で摂取しており、摂取量は少ない。 入院後3か月が経過した。Aさんは気分が安定し、食事も全量摂取できるようになり、日中は作業療法に週4日参加している。「もう死にたい気持ちはなくなりました。でも、まだ短時間しか新聞を読めないので、仕事に戻るのが不安です」と話している。 Aさんの退院に向けた支援として適切なのはどれか。2つ選べ。
解説:正解は 3 と 5 です。双極性障害は再発・再燃を繰り返しやすい疾患であり、退院支援では「再発予防」と「社会生活への段階的な復帰準備」が2本柱になる。Aさんは抑うつエピソードから回復しつつあるが、集中力の持続に不安を訴えている。再発の前兆(睡眠の変化、過活動、抑うつ気分など)を本人と一緒に言語化しておくことで、早期対処行動(セルフモニタリング)につなげられる。また、作業療法のプログラムに集中力を高める内容を組み込むことは、本人が自覚している課題に直接アプローチでき、復職への自信にもつながる。
選択肢考察
-
× 1. 転職を勧める。
回復期の患者に大きな環境変化を促すことは、ストレス負荷となり再発のリスクを高める。復職できるか不安を訴えている段階で転職を勧めるのは時期尚早であり、本人の希望にも基づいていない。
-
× 2. 上司との面会を設定する。
復職への不安が強い時期に上司と面会すると、評価される不安や焦りから抑うつ症状が悪化する危険がある。復職支援はリワークプログラムや産業医との連携を段階的に進めるのが原則であり、現段階では不適切。
-
○ 3. 再発のサインを一緒に見つける。
双極性障害は生涯にわたり再発リスクが高い疾患で、本人が自身の前駆症状(不眠、気分の変動、多弁、浪費など)に気づけることが病状コントロールの要となる。看護師と一緒に振り返り「再発のサイン」を具体化することは、セルフマネジメント能力を高める中心的ケアである。
-
× 4. 自信が持てるようになるまで待つ。
ただ待つ姿勢では自信は得られない。成功体験を積み重ねられるよう段階的な課題を設定し、能動的に援助することが必要。受動的に「待つ」のは支援ではなく放置に近い。
-
○ 5. 作業療法に集中力を高めるプログラムを入れる。
Aさん自身が「新聞を短時間しか読めない」と集中力の低下を自覚し、それが復職への不安につながっている。作業療法でこの課題に焦点を当てたプログラムを導入することは、本人のニーズに沿った具体的かつ適切な復職準備となる。
双極性障害の再発予防では、薬物療法(リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなどの気分安定薬)の継続とともに、心理教育による「病識」と「自己管理能力」の獲得が重要。睡眠表や気分記録表(ライフチャート)を活用して前駆症状を可視化する方法はエビデンスがある。復職支援としては、リワークプログラム、産業医・主治医との連携、短時間勤務からの段階的復帰などが用いられる。
双極性障害の回復期における退院支援では、再発予防教育と、本人が自覚している機能面の課題に具体的に働きかけることが適切と問う問題。
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