自殺企図後のうつ病患者への初期対応
看護師国家試験 第108回 午後 第112問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(40歳、男性、会社員)は、うつ病(depression)と診断されていた。最近、仕事がうまくいかず、大きなミスを起こし、会社に損失を与えたことから自分を責め不眠となり、体重が減少した。ある朝、リビングの床で寝ているAさんを妻が発見し、大きな声で呼びかけたところ、Aさんは1度目を開けたが、すぐ目を閉じてしまった。ごみ箱に、からになった薬の袋が大量に捨ててあり、机には遺書があった。救急搬送後、意識が清明となり、身体的問題がないため精神科病院に入院となった。 入院時の看護師のAさんに対する関わりで適切なのはどれか。
- 1.いま死にたい気持ちがあるか尋ねる。
- 2.命を大切にしたほうがよいと伝える。
- 3.死ぬ気があれば何でもできると話をする。
- 4.家族が悲しむから死んではいけないと伝える。
対話形式の解説
博士
今回はね、過量服薬で自殺を図って精神科に入院したAさんの事例だよ。
アユム
遺書まで用意していたんですよね…声をかけるのも怖い気がします。
博士
そう感じるのは自然なんじゃ。でも実は「死にたい気持ちがあるか」と率直に尋ねることこそが、看護師の大事な最初の一歩なんじゃよ。
アユム
直接聞いても大丈夫なんですか?聞いたら逆に追い詰めてしまいそうで…
博士
よくある誤解じゃが、希死念慮を尋ねることで自殺を誘発することはないと研究で示されておる。むしろ聞かれることで本人は「わかってくれる人がいる」と感じ、気持ちを吐き出せるんじゃ。
アユム
なるほど。これがTALKの原則の「Ask」にあたるんですね。
博士
その通り。Tell(心配を伝える)、Ask(率直に尋ねる)、Listen(傾聴)、Keep safe(安全確保)の4つじゃ。正解は1番、いま死にたい気持ちがあるか尋ねるじゃよ。
アユム
2番の「命を大切にしたほうがよい」はどうしてダメなんですか?
博士
正論の説諭は、追い詰められて自殺を図った人にはさらに罪責感を重ねるんじゃ。「わかってはいるけどできないんだ」という苦しみを深めてしまう。
アユム
3番の「死ぬ気があれば何でもできる」は励まし系ですね。
博士
うつ病の急性期に激励は禁忌じゃ。しかも自殺を肯定するような響きすらあり、二重に不適切なんじゃよ。
アユム
4番の「家族が悲しむから死んではいけない」もダメな理由は?
博士
家族への罪悪感を刺激して「自分がいない方が家族のためだ」という歪んだ認知を強めてしまうおそれがあるんじゃ。
アユム
自殺企図後は、まず受容と傾聴、そして安全確保なんですね。
博士
そうじゃ。そして入院中も危険物の管理や観察強化を忘れてはいけない。希死念慮は波があるから、繰り返しアセスメントすることが命を守るケアじゃ。
POINT
自殺企図直後のうつ病患者への対応では、希死念慮の有無を率直に尋ねることが基本です。TALKの原則に基づき、非審判的な態度で傾聴することで信頼関係を築きます。励まし、説諭、家族を持ち出す発言は急性期には逆効果で、罪責感や孤立感を深める可能性があります。まずは受容と安全確保を徹底することが命を守る看護の第一歩です。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(40歳、男性、会社員)は、うつ病(depression)と診断されていた。最近、仕事がうまくいかず、大きなミスを起こし、会社に損失を与えたことから自分を責め不眠となり、体重が減少した。ある朝、リビングの床で寝ているAさんを妻が発見し、大きな声で呼びかけたところ、Aさんは1度目を開けたが、すぐ目を閉じてしまった。ごみ箱に、からになった薬の袋が大量に捨ててあり、机には遺書があった。救急搬送後、意識が清明となり、身体的問題がないため精神科病院に入院となった。 入院時の看護師のAさんに対する関わりで適切なのはどれか。
解説:正解は 1 です。自殺企図(過量服薬)の直後であり、再企図のリスクが最も高い時期にあります。希死念慮の有無を直接的に、しかし非審判的に尋ねることはTALKの原則(Tell・Ask・Listen・Keep safe)に基づく自殺予防の基本であり、聞くことで自殺を誘発することはないとされています。まず患者の苦しみを受け止め治療的関係を築く第一歩になります。
選択肢考察
-
○ 1. いま死にたい気持ちがあるか尋ねる。
希死念慮を直接確認することは自殺予防の基本姿勢です。率直に尋ねることで本人が気持ちを表出でき、看護師との信頼関係の構築と安全確保につながります。
-
× 2. 命を大切にしたほうがよいと伝える。
一般論の説諭は、追い詰められて自殺を図った患者にさらなる罪責感を抱かせ、孤立感を深めるため不適切です。
-
× 3. 死ぬ気があれば何でもできると話をする。
激励や叱咤は急性期のうつ病患者に過大な負担を与え、自殺を肯定的に扱う発言とも受け取られかねないため不適切です。
-
× 4. 家族が悲しむから死んではいけないと伝える。
家族への罪悪感を刺激し、「自分がいない方がよい」という思考をむしろ強める可能性があり、この時期の声かけとして不適切です。
自殺企図後の看護では、まず安全確保(危険物の管理、観察強化)、次に希死念慮や自殺計画の具体性を評価します。うつ病急性期は「頑張れ」などの励ましは禁忌で、傾聴と受容が基本です。TALKの原則(Tell=心配を伝える、Ask=自殺について率直に尋ねる、Listen=傾聴する、Keep safe=安全確保)を押さえましょう。
自殺企図直後のうつ病患者に対する入院時初期介入として、希死念慮を直接確認する重要性を問う問題です。
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