造血幹細胞移植の前処置!全身放射線照射が果たす2つの使命
看護師国家試験 第114回 午前 第84問 / 成人看護学 / がん看護
国試問題にチャレンジ
同種造血幹細胞移植の前に行われる全身放射線照射の目的はどれか。2つ選べ。
- 1.感染の予防
- 2.拒絶反応の防止
- 3.抗癌薬の活性化
- 4.腫瘍細胞の根絶
- 5.移植片対宿主病<GVHD>(graft−versus−host disease)の予防
対話形式の解説
博士
今日はちょっと専門的じゃが、同種造血幹細胞移植の前処置の問題を解いていこう。全身放射線照射、英語でTBIというのじゃが、何のためにやると思う?
アユム
がんを叩くため…ですか?
博士
半分正解じゃ。残りの半分が大事なところじゃ。同種移植では他人の造血幹細胞を入れるから、患者の免疫がドナー細胞を攻撃して拒絶してしまうのじゃ。
アユム
あ、そうか。移植って臓器移植だけじゃなくて、骨髄移植でも拒絶があるんですね。
博士
その通り。だから前処置で患者の免疫システムを徹底的に破壊して、ドナー細胞を受け入れられる状態にする。これが拒絶反応の防止じゃ。
アユム
もうひとつの目的は?
博士
白血病やリンパ腫の残存している悪性細胞を全身的に叩き切ることじゃ。化学療法だけでは中枢神経系や精巣など薬が届きにくい部位に潜む細胞が残ることがある。放射線なら全身くまなく当てられるからな。
アユム
なるほど、全身に当てるから「全身」放射線照射なんですね。
博士
そうじゃ。通常の局所放射線治療とはスケールが違う。前処置では大量化学療法と組み合わせて、骨髄をほぼ完全にリセットするのじゃ。
アユム
ということは、患者さんは免疫がほとんどなくなる…感染症が怖いですね。
博士
鋭い指摘じゃ。だから選択肢1の「感染の予防」は逆で、TBIをやるとむしろ感染リスクが爆上がりする。クリーンルームに入って抗菌薬・抗ウイルス薬・抗真菌薬を予防投与しながら生着を待つのじゃ。
アユム
選択肢5のGVHDの予防はどうですか?
博士
これも引っかけポイントじゃな。GVHD(移植片対宿主病)はドナーのリンパ球が患者の組織を攻撃する、いわば「逆の拒絶」じゃ。これは移植後の合併症で、TBIでは予防できん。GVHD予防には免疫抑制薬(シクロスポリンやメトトレキサート)を使う。
アユム
拒絶(患者→ドナー)とGVHD(ドナー→患者)、向きが逆なんですね。覚えやすいです。
博士
その通り!臓器移植では拒絶だけが問題じゃが、骨髄移植では「免疫細胞そのもの」を移植するからGVHDという特殊な反応が起こる。
アユム
看護では何に気をつけたらいいですか?
博士
無菌管理は基本中の基本。口腔粘膜障害が出やすいから口腔ケア、皮疹や下痢などGVHD徴候の観察、感染徴候のモニタリング、そして治療が長く厳しいから心理的支援も欠かせん。
アユム
前処置の意味と合併症が一気につながりました。命がけの治療なんですね。
POINT
同種造血幹細胞移植の前処置として行われる全身放射線照射(TBI)の目的は、患者の免疫系を抑制してドナー細胞への拒絶反応を防ぐこと、および全身に散在する残存悪性細胞を根絶して再発を防ぐことの二点です。大量化学療法と併用することで骨髄機能をほぼ完全にリセットし、ドナー由来の造血幹細胞が生着できる土台を作ります。一方で、TBIは免疫機能を強力に抑制するため感染リスクは増大し、また移植片対宿主病(GVHD)はドナーリンパ球による反応であるためTBIでは予防できない点に注意が必要です。看護では無菌管理、口腔・皮膚・消化管粘膜の観察、感染徴候の早期発見、長期治療に伴う心理的支援が重要となり、前処置の目的を理解することが移植看護の基盤となります。
解答・解説
正解は 2 ・ 4 です
問題文:同種造血幹細胞移植の前に行われる全身放射線照射の目的はどれか。2つ選べ。
解説:正解は 2 の拒絶反応の防止と 4 の腫瘍細胞の根絶です。同種造血幹細胞移植の前処置として行われる全身放射線照射(TBI: Total Body Irradiation)には、大きく分けて二つの目的があります。一つは患者の骨髄や免疫系をリセットすることで、ドナー由来の造血幹細胞に対する拒絶反応を抑え、生着を促進すること。もう一つは白血病やリンパ腫などの残存している悪性細胞を全身的に根絶することで、再発を防ぐことです。前処置として大量化学療法と併用されることが多く、移植成績を左右する極めて重要な治療工程です。
選択肢考察
-
× 1. 感染の予防
全身放射線照射はむしろ免疫機能を強力に抑制するため、感染リスクは増加する。感染予防のためにクリーンルーム管理、抗菌薬・抗ウイルス薬・抗真菌薬の予防投与が併用される。
-
○ 2. 拒絶反応の防止
患者自身のリンパ球など免疫担当細胞を放射線で破壊し、ドナー造血幹細胞への拒絶反応を防ぎ、生着を促進する。前処置の中核となる目的の一つ。
-
× 3. 抗癌薬の活性化
放射線は細胞のDNAを直接損傷するもので、抗癌薬を活性化する作用はない。前処置では大量化学療法と放射線療法を併用するが、両者は独立して作用する。
-
○ 4. 腫瘍細胞の根絶
化学療法で到達しにくい部位(中枢神経系・精巣など)も含め、全身に散在する残存腫瘍細胞を放射線で死滅させ、再発を防ぐことが目的。
-
× 5. 移植片対宿主病<GVHD>(graft−versus−host disease)の予防
GVHDはドナー由来のリンパ球が患者組織を異物と認識して攻撃する移植後合併症であり、TBIでは予防できない。GVHD予防には免疫抑制薬(シクロスポリンやメトトレキサートなど)が用いられる。
同種造血幹細胞移植の前処置にはTBIと大量化学療法の併用(骨髄破壊的前処置)と、近年高齢者や臓器障害患者向けに用いられる強度減弱前処置(RIST)がある。移植後の主な合併症には、生着不全、感染症、急性/慢性GVHD、肝中心静脈閉塞症(VOD)などがあり、いずれも患者の生命予後に直結する。看護では無菌管理、口腔ケア、皮膚・粘膜の観察、感染徴候のモニタリング、心理的支援が重要となる。
造血幹細胞移植の前処置(TBI)の目的は、患者の免疫を抑えて拒絶を防ぐことと、残存腫瘍細胞を根絶することの二点。GVHDは移植後合併症であり、前処置で予防するものではない点が引っかけ。
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