気管内吸引の正しい手順!VAPを防ぐ5つの基本ルール
看護師国家試験 第109回 午前 第80問 / 基礎看護学 / 診療に伴う看護技術
国試問題にチャレンジ
成人の気管内吸引の方法で適切なのはどれか。
- 1.実施前に咽頭部の分泌物を吸引する。
- 2.吸引圧は − 40 kPa( 300 mmHg )に調整する。
- 3.気管チューブと同じ内径のカテーテルを用いる。
- 4.カテーテルの挿入開始から終了まで 30 秒で行う。
- 5.カテーテルは気管分岐部より深い位置まで挿入する。
対話形式の解説
博士
今日は気管内吸引の問題じゃ。ICU看護でも在宅でも必須の技術じゃぞ。
アユム
吸引って怖いイメージです。低酸素になったり出血したり…
博士
じゃからこそ正しい手順を理解することが大事なんじゃ。まずは選択肢を一つずつ検討しよう。
アユム
選択肢1『実施前に咽頭部の分泌物を吸引する』は正しそうですね。
博士
その通り、これが正解。気管チューブのカフ上部には唾液・鼻汁・口腔分泌物が溜まっておる。先に除去しないと、気管内吸引時に陰圧や咳嗽で気管へ流れ込む。
アユム
それがVAP(人工呼吸器関連肺炎)の原因になるんですね。
博士
うむ。だから順番は『カフ上部・口腔・鼻腔の分泌物を先に吸引→気管内吸引』が鉄則じゃ。
アユム
選択肢2『吸引圧は−40kPa(300mmHg)に調整』は?
博士
これは強すぎる。成人の気管内吸引は−20kPa(−150mmHg)以下が標準じゃ。−40kPaだと粘膜損傷や出血を起こす。
アユム
選択肢3『気管チューブと同じ内径のカテーテル』は?
博士
これも危険じゃ。チューブと同径だと内腔を完全に塞いでしまい、吸引時に肺から空気が一気に吸い出される。肺胞虚脱・低酸素血症のリスクが高い。
アユム
どれくらいの太さが適切ですか?
博士
気管チューブ内径の1/2以下が原則。成人では通常12〜14Frを使う。
アユム
選択肢4『挿入開始から終了まで30秒』は長すぎますよね。
博士
長すぎる。1回の吸引は10〜15秒以内、吸引操作自体は10秒以内が原則じゃ。吸引中は空気も引くから、長時間だと低酸素血症になる。
アユム
選択肢5『気管分岐部より深い位置まで挿入』は?
博士
これも誤り。分岐部に当たると粘膜損傷や迷走神経反射で徐脈・不整脈を起こす。目安は気管チューブ長+1cm程度、分岐部に当たる前で止める。
アユム
吸引前に酸素化を高めることも大事と聞きました。
博士
うむ、『プレオキシゲネーション』じゃ。100%酸素を1分ほど投与してから吸引すると、低酸素血症を予防できる。
アユム
吸引中の観察ポイントは?
博士
SpO2、心拍数、血圧、顔色、不整脈の有無、分泌物の性状・量・色じゃ。SpO2が90%を切ったら即中止して酸素化を回復する。
アユム
迷走神経反射で徐脈になることもあるんですね。
博士
そう、特に気管分岐部や気管粘膜への強い刺激で起こる。アトロピンを準備しておく場合もある。
アユム
閉鎖式吸引というのもありますよね。
博士
呼吸回路を開放せずに吸引できるシステムで、VAP予防と低酸素血症予防に有効じゃ。人工呼吸管理中は閉鎖式が推奨される。
アユム
まとめると、前処置で咽頭吸引、圧は150mmHg以下、カテーテルは細く、時間は短く、深さは分岐部手前まで、ですね。
博士
完璧じゃ。日本呼吸療法医学会の『気管吸引ガイドライン』が標準じゃから、実習前に読んでおくのじゃ。
POINT
成人の気管内吸引では、実施前に口腔・鼻腔・咽頭部・カフ上部の分泌物を吸引することが最も重要な基本手順です。これは気管内吸引時の陰圧や咳嗽により汚染分泌物が気管へ流れ込み、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の原因となるのを防ぐためです。正しい技術基準は、吸引圧は−20kPa(−150mmHg)以下、カテーテル径は気管チューブ内径の1/2以下(12〜14Fr)、吸引時間は10〜15秒以内、挿入深度は気管分岐部に当たらない位置までです。合併症には低酸素血症、粘膜損傷、迷走神経反射による徐脈、肺胞虚脱があり、実施前後のプレオキシゲネーションとバイタルモニタリングが欠かせません。閉鎖式吸引システムの活用はVAP予防に特に有効で、日本呼吸療法医学会の気管吸引ガイドラインが標準的根拠となります。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:成人の気管内吸引の方法で適切なのはどれか。
解説:正解は 1 です。気管内吸引を行う前には、口腔・鼻腔・咽頭部および気管チューブのカフ上部に貯留した分泌物を先に吸引することが原則である。これは、気管内吸引時に陰圧や咳嗽反射でカフ上部の汚染された分泌物が気管側へ流れ込み、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の原因となることを防ぐためである。吸引の順番は『カフ上部・口腔・鼻腔の分泌物除去→気管内吸引』となる。
選択肢考察
-
○ 1. 実施前に咽頭部の分泌物を吸引する。
気管内吸引の前に咽頭部やカフ上部の分泌物を吸引することで、気管内へ汚染分泌物が流れ込むのを防ぎ、VAP予防につながる。これは日本呼吸療法医学会の気管吸引ガイドラインでも推奨されている手順である。
-
× 2. 吸引圧は − 40 kPa( 300 mmHg )に調整する。
成人の気管内吸引の推奨吸引圧は−20kPa(−150mmHg)以下で、−40kPa(−300mmHg)は強すぎて気管粘膜損傷や出血、肺胞虚脱を招く危険がある。
-
× 3. 気管チューブと同じ内径のカテーテルを用いる。
カテーテルは気管チューブ内径の『1/2以下』が適切。同じ内径だとチューブ全体を塞いでしまい、吸引時に肺から空気が抜けて高度の無気肺・低酸素血症を起こす。
-
× 4. カテーテルの挿入開始から終了まで 30 秒で行う。
吸引による陰圧は肺内の空気も吸い出すため、低酸素血症や肺胞虚脱のリスクがある。1回の吸引は挿入から抜去まで10〜15秒以内、吸引操作そのものは10秒以内に収めるのが原則。30秒は長すぎる。
-
× 5. カテーテルは気管分岐部より深い位置まで挿入する。
気管分岐部にカテーテル先端が当たると粘膜損傷や迷走神経反射(徐脈・不整脈)を招く。挿入の目安は気管チューブ長+1cm程度、または気管分岐部に当たる前に止める。浅めの『閉鎖式吸引』が推奨される場合も多い。
気管内吸引の合併症には、低酸素血症、気道粘膜損傷・出血、不整脈(迷走神経反射による徐脈)、気管支攣縮、頭蓋内圧亢進、感染、肺胞虚脱などがある。これらを予防するため、①実施前の高濃度酸素化(100%O2を1分間)、②適切な吸引圧(−150mmHg以下)、③カテーテル太さ(気管チューブ内径の1/2以下、通常12〜14Fr)、④吸引時間(10〜15秒以内)、⑤挿入深度(気管分岐部に当たらない深さ)、⑥1回で終わらせる、⑦閉鎖式吸引システムの活用、が推奨される。閉鎖式吸引はVAP予防にも有効。日本呼吸療法医学会『気管吸引ガイドライン2013』が標準的根拠資料である。
気管内吸引の手順・圧・カテーテル選択・時間・深度に関する基本技術問題。『吸引前に咽頭部を先に、圧は150mmHg以下、時間は10〜15秒、深さは分岐部手前まで』という基本数値の理解が決め手。
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