Aさんの胃瘻造設をめぐる家族の意思決定支援
看護師国家試験 第104回 午前 第101問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(90歳、女性)は、Alzheimer〈アルツハイマー〉病(Alzheimer disease)で、重度の認知機能の低下がある。要介護4で、短期入所〈ショートステイ〉や通所介護を利用している。長年、 長男夫婦が自宅で介護している。 Aさんは、誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)のために入退院を繰り返している。今回の入院で主治医はAさんの家族に胃瘻の造設を含めた今後の方針を説明した。Aさんの長男は胃瘻の造設を希望せず、主に介護を行ってきた長男の妻は「私には決められない」と迷っている。Aさんの長男の妻に対する看護師の対応として最も適切なのはどれか。
- 1.「あなたがAさんの立場ならどうしますか」
- 2.「介護支援専門員の考えを聞いてみましょう」
- 3.「私の経験から胃瘻を造らないことを勧めます」
- 4.「Aさんはこのような状況になったとき、どうしたいと言っていましたか」
対話形式の解説
博士
今日はの、認知症が進んだAさんに胃瘻を造るかどうか、長男の妻が迷っとる場面じゃ。
サクラ
胃瘻を造るかどうかって、家族にとって本当に重い決断ですよね。
博士
その通りじゃ。じゃが、ここで看護師がまず確認すべきは「誰の人生か」という点なんじゃよ。
サクラ
Aさん本人の人生、ですね。
博士
うむ。重度の認知症で今は意思表明が難しいが、元気な頃に「最期はこうしたい」と話していたかもしれん。
サクラ
なるほど、ご本人の昔の言葉から推定意思を探るんですね。
博士
それが「アドバンス・ケア・プランニング」じゃ。家族から本人の価値観を引き出すのが第一歩じゃ。
サクラ
選択肢1の「あなたならどうしますか」は、長男の妻自身の話にすり替わってしまいますね。
博士
そうじゃ。判断軸を本人から逸らしてしまう質問は避けるんじゃ。
サクラ
2のケアマネジャーに聞くのも、医療判断の主体ではないですもんね。
博士
3の看護師個人の経験談は論外じゃ。家族の自律性を侵してしまうからのう。
サクラ
だから4の「Aさんはどう言っていましたか」が最適なんですね。
博士
ガイドラインでも、本人意思の尊重が原則とされとるんじゃよ。
POINT
重度認知症の代理意思決定では、まず本人の推定意思を家族から引き出すことが基本原則です。看護師個人の価値観を押し付けたり、家族に立場を置き換えさせる問いかけは不適切です。厚労省ガイドラインに基づき、家族と医療チームが本人の人生観を共有しながら合意形成を進めることが、後悔の少ない意思決定支援につながります。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(90歳、女性)は、Alzheimer〈アルツハイマー〉病(Alzheimer disease)で、重度の認知機能の低下がある。要介護4で、短期入所〈ショートステイ〉や通所介護を利用している。長年、 長男夫婦が自宅で介護している。 Aさんは、誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia)のために入退院を繰り返している。今回の入院で主治医はAさんの家族に胃瘻の造設を含めた今後の方針を説明した。Aさんの長男は胃瘻の造設を希望せず、主に介護を行ってきた長男の妻は「私には決められない」と迷っている。Aさんの長男の妻に対する看護師の対応として最も適切なのはどれか。
解説:正解は4です。重度の認知機能低下によりAさん本人が現時点で意思を表明することは難しいため、まずは元気な頃にAさんが胃瘻や延命に関してどのような価値観・希望を口にしていたかを家族から引き出すことが、本人中心の意思決定を支える出発点になります。長男の妻が迷っている場面でも、判断の責任を一人に負わせず、Aさんの推定意思を共有することで家族全体の合意形成を後押しできます。
選択肢考察
-
× 1. 「あなたがAさんの立場ならどうしますか」
代理意思決定の場面で介護者自身に立場を置き換えさせる問いかけは、判断軸をAさん本人から離れさせ、迷いや罪悪感を強める可能性があります。
-
× 2. 「介護支援専門員の考えを聞いてみましょう」
ケアマネジャーは生活支援の調整役であり、医療的な侵襲を伴う胃瘻造設の判断主体ではありません。本人の推定意思の確認が先行されるべきです。
-
× 3. 「私の経験から胃瘻を造らないことを勧めます」
看護師個人の価値判断を押し付けることは、家族の自律的な意思決定を妨げ、後悔の原因にもなります。中立的な情報提供にとどめる姿勢が必要です。
-
○ 4. 「Aさんはこのような状況になったとき、どうしたいと言っていましたか」
本人の事前意思(推定意思)を家族から聞き出すことは、認知症の人の意思決定支援ガイドラインでも基本原則とされており、最も適切な対応です。
厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」では、本人意思の尊重・残存能力の活用・チームによる支援の3つを柱としています。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の視点で、本人が表明していた価値観や生活信条を手がかりに「推定意思」を組み立てる手順を覚えておきましょう。
重度認知症高齢者の代理意思決定場面で、看護師が誰の意思を最優先に支援すべきかを問う問題です。
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