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災害時の子どもの急性ストレス反応

看護師国家試験 第105回 午後 第116問 / 小児看護学 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

105回 午後 第116問

次の文を読み、問いに答えよ。 Aちゃん(4歳、男児)は、昨夜の土砂災害によって両親とともに小学校の体育館に避難している。母親は自分の両親の安否が不明なため眠ることができなかった。また、落ち着きがなく感情的になっている。父親はずっと毛布をかぶって横になっている。 昼間のAちゃんは体育館の中を走り回っている。また、指しゃぶりをしながら両親の姿を気にしているが、近づいて甘えようとはしない。 Aちゃんの反応で正しいのはどれか。

  1. 1.自我同一性の拡散
  2. 2.急性ストレス障害(acute stress disorder)
  3. 3.外傷後ストレス障害〈PTSD〉(post-traumatic stress disorder)
  4. 4.注意欠陥多動性障害〈ADHD〉(attention deficit hyperactivity disorder)

対話形式の解説

博士 博士

今回は4歳のAちゃんじゃ。昨夜の土砂災害で体育館に避難中、昼間は走り回り、指しゃぶりをし、両親を気にしながらも甘えられない。さてこの反応は何に該当するかのう?

アユム アユム

昨夜の災害ということは、まだ1日しか経っていないんですね。

博士 博士

そこが大事なポイントじゃ。ストレス反応の診断名は『経過時間』で区別されるんじゃ。DSM-5では外傷的出来事の後、3日〜1か月未満のストレス反応を急性ストレス障害(ASD)、1か月以上持続するとPTSDと呼ぶ。

アユム アユム

Aちゃんの症状を整理してみます。走り回る、指しゃぶり、親を気にしながら甘えない…これらはストレス反応ですか?

博士 博士

そうじゃ。幼児の外傷反応の特徴を覚えてほしい。退行(指しゃぶり・赤ちゃん返り)、多動・落ち着きのなさ(覚醒亢進)、親への接近回避や解離様の反応(回避症状)、悪夢や災害ごっこ遊び(侵入症状)などが典型じゃ。

アユム アユム

大人と表現が違うんですね。

博士 博士

その通り。幼児は言語で恐怖を表現できないから、遊びや身体症状、対人行動の変化として現れる。夜泣き、腹痛、頭痛、分離不安なども外傷反応のサインじゃ。

アユム アユム

では選択肢を見ていきます。選択肢1の『自我同一性の拡散』は?

博士 博士

これはエリクソンの発達理論で青年期の心理社会的危機じゃ。『自分は何者か』を確立できない状態で、思春期以降の概念じゃから4歳児には発達段階的に当てはまらん。

アユム アユム

選択肢2の『急性ストレス障害』が正解ですね。

博士 博士

そうじゃ。土砂災害という命の危険を伴う出来事への暴露があり、1か月未満で退行・多動・回避のストレス反応が出ておる。ASDの診断基準にぴったり合致するんじゃ。

アユム アユム

選択肢3の『PTSD』はどこが違うんですか?

博士 博士

症状の内容はASDとほぼ同じじゃが、1か月以上持続することが診断要件じゃ。Aちゃんは災害から1日しか経っていないからPTSDではない。ただしASDのうち約半数はPTSDへ移行するといわれ、早期介入が重要じゃ。

アユム アユム

選択肢4の『ADHD』は?走り回っている点は似ていますが。

博士 博士

ADHDは12歳以前から不注意・多動性・衝動性の症状が複数の場面で6か月以上続く神経発達症じゃ。ある日の出来事を契機に突然出現した多動は発達症ではなく外傷反応と考える。鑑別の鍵は発症時期と経過じゃ。

アユム アユム

なるほど。同じ多動でも背景が全く違うんですね。

博士 博士

そうじゃ。支援の基本は、安全確保、安心できる大人の存在、規則正しい生活リズム、そして遊びや絵を通じた非言語的表出機会の提供じゃ。無理に体験を語らせないことが鉄則じゃよ。

アユム アユム

両親も大変な状況ですが、子どもの心のケアは早期からの関わりが重要ですね。

博士 博士

その通り。親が混乱していると子どもも安定しづらい。家族全体を支える視点が災害精神保健の基本じゃ。サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)という考え方も押さえておくとよい。

POINT

災害から1か月未満に出現する急性ストレス反応は急性ストレス障害(ASD)に該当します。4歳のAちゃんに見られる指しゃぶりの退行、多動、親への接近回避は幼児の外傷反応の典型像です。1か月以上持続するとPTSDに診断名が変わるため、早期の心理的支援が重要で、安全確保・規則的生活・非言語的表出機会の提供が基本となります。

解答・解説

正解は 2 です

問題文:次の文を読み、問いに答えよ。 Aちゃん(4歳、男児)は、昨夜の土砂災害によって両親とともに小学校の体育館に避難している。母親は自分の両親の安否が不明なため眠ることができなかった。また、落ち着きがなく感情的になっている。父親はずっと毛布をかぶって横になっている。 昼間のAちゃんは体育館の中を走り回っている。また、指しゃぶりをしながら両親の姿を気にしているが、近づいて甘えようとはしない。 Aちゃんの反応で正しいのはどれか。

解説:正解は 2 です。災害など命に関わる強烈なストレス体験の後、3日〜1か月以内に出現する侵入症状・否定的気分・解離症状・回避・覚醒亢進などのストレス反応を『急性ストレス障害(ASD: Acute Stress Disorder)』と呼びます。Aちゃんは昨夜の土砂災害直後で、体育館を走り回る(覚醒亢進・多動)、指しゃぶり(退行)、親を気にしても甘えられない(回避・解離)など典型的な急性ストレス反応を示しており、急性ストレス障害に該当します。

選択肢考察

  1. × 1.  自我同一性の拡散

    自我同一性(アイデンティティ)の拡散はエリクソンの発達理論で青年期(思春期)の心理社会的危機です。4歳のAちゃんは前操作期・幼児後期にあり、発達段階的にも状況的にも該当しません。

  2. 2.  急性ストレス障害(acute stress disorder)

    災害発生から1か月未満で、侵入・回避・覚醒亢進・退行などのストレス反応を示している状態はDSM-5の急性ストレス障害の基準に合致します。Aちゃんの多動・指しゃぶり・親への接近回避はその典型像です。

  3. × 3.  外傷後ストレス障害〈PTSD〉(post-traumatic stress disorder)

    PTSDは同様のストレス反応が1か月以上持続する場合の診断名です。Aちゃんは災害から1日しか経過しておらずPTSDには該当しません。ASDからPTSDへ移行することはあります。

  4. × 4.  注意欠陥多動性障害〈ADHD〉(attention deficit hyperactivity disorder)

    ADHDは不注意・多動性・衝動性の症状が12歳以前から複数の場面で6か月以上持続する神経発達症です。急性ストレス反応として突然出現した多動はADHDとは区別されます。

DSM-5では外傷的出来事への暴露後、3日〜1か月未満をASD、1か月以上持続をPTSDと区別します。幼児の外傷反応は大人と異なり『退行(赤ちゃん返り)』『災害ごっこ遊び』『夜泣き』『分離不安』『身体症状(腹痛・頭痛)』として現れやすいのが特徴です。支援の基本は安全確保・安心できる大人の存在・規則正しい生活・遊びや絵などを通した非言語的表出機会の提供で、無理に語らせないことが原則です。

災害後の急性期における小児の心理反応を、発達段階と経過時間から急性ストレス障害と判断できるかを問う問題です。