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身体的拘束中の看護で押さえるべき合併症予防と倫理

看護師国家試験 第110回 午後 第112問 / 精神看護学 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

110回 午後 第112問

Aさん( 35歳、男性)は1人暮らし。両親は他県に住んでいる。30歳のときに双極性障害( bipolar disorder )と診断され、これまでに4回の入退院を繰り返している。給料をインターネットゲームの利用料金で度々使い果たし、それが原因で両親と何度も口論になったことがある。仕事では同僚とトラブルを起こすたびに転職を繰り返しており、今回も同僚と口論になり自ら退職した。Aさんは「前の職場の同僚に嫌がらせをしてやる」と母親に電話をかけ、心配した両親が一緒に精神科病院を受診した。診察室では多弁で大きな声を出し、椅子を蹴るなどの行為がみられた。医師の診察の結果、入院して治療することになった。 入院時、AさんのBMIは29.5。この数日は食事をとっていなかった。入院後も興奮状態がおさまらず、壁に頭を打ちつけはじめたため、医師から抗精神病薬の点滴静脈内注射と身体的拘束の指示がでた。 身体的拘束中のAさんの看護で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 1.水分摂取は最小限にする。
  2. 2.肺血栓塞栓症( pulmonary thromboembolism )を予防する。
  3. 3.頻回に様子を見に来ることを伝える。
  4. 4.身体的拘束の原因となった行為を一緒に振り返る。
  5. 5.興奮状態が落ち着いたら看護師の判断で身体的拘束を解除する。

対話形式の解説

博士 博士

今日はAさんが壁に頭を打ちつける自傷行為で拘束指示が出た場面じゃ。

アユム アユム

BMI29.5で数日絶食しているというのも気になりますね。

博士 博士

鋭いのう。肥満と脱水は何のリスクを高めるか分かるか。

アユム アユム

血液が濃縮して血栓ができやすくなります。

博士 博士

その通り。だから選択肢1の水分最小限は逆に危険じゃ。

アユム アユム

拘束中の大きな合併症は肺血栓塞栓症ですよね。

博士 博士

うむ。エコノミークラス症候群と同じ機序で起こるのじゃ。

アユム アユム

だから選択肢2が正解なんですね。

博士 博士

もうひとつ、拘束された患者の気持ちを想像してみよ。

アユム アユム

身動きがとれず、不安で見捨てられる気がしそうです。

博士 博士

そこで頻回訪問を予告することが大きな安心につながるのじゃ。選択肢3じゃな。

アユム アユム

選択肢4の振り返りは興奮中には刺激になりますね。

博士 博士

そして拘束の開始も解除も必ず医師の指示が必要じゃ。看護師独自の判断はできん。

アユム アユム

選択肢5が誤りな理由ですね。正解は2と3です。

博士 博士

拘束は最終手段。解除に向けた観察と援助を丁寧に行うことが大切じゃぞ。

POINT

身体的拘束中の看護では、深部静脈血栓症から肺血栓塞栓症に至る合併症予防が最優先です。水分補給と他動運動で血栓を予防し、弾性ストッキングも検討します。加えて、頻回な巡視を予告することで患者の不安を和らげ治療関係を守ります。振り返りは鎮静後に行い、拘束の開始・解除は必ず医師の指示に基づきます。

解答・解説

正解は 2 3 です

問題文:Aさん( 35歳、男性)は1人暮らし。両親は他県に住んでいる。30歳のときに双極性障害( bipolar disorder )と診断され、これまでに4回の入退院を繰り返している。給料をインターネットゲームの利用料金で度々使い果たし、それが原因で両親と何度も口論になったことがある。仕事では同僚とトラブルを起こすたびに転職を繰り返しており、今回も同僚と口論になり自ら退職した。Aさんは「前の職場の同僚に嫌がらせをしてやる」と母親に電話をかけ、心配した両親が一緒に精神科病院を受診した。診察室では多弁で大きな声を出し、椅子を蹴るなどの行為がみられた。医師の診察の結果、入院して治療することになった。 入院時、AさんのBMIは29.5。この数日は食事をとっていなかった。入院後も興奮状態がおさまらず、壁に頭を打ちつけはじめたため、医師から抗精神病薬の点滴静脈内注射と身体的拘束の指示がでた。 身体的拘束中のAさんの看護で正しいのはどれか。2つ選べ。

解説:正解は2と3です。身体的拘束中は静脈うっ滞による肺血栓塞栓症のリスクが高く予防が必須であり、また患者の不安・恐怖を和らげるために頻回な巡視を予告することが重要です。

選択肢考察

  1. × 1.  水分摂取は最小限にする。

    拘束中は自力での水分摂取が困難になるため、むしろ脱水予防のために積極的な水分補給援助が必要です。BMI29.5の肥満傾向に加え数日間絶食している状態では血液濃縮が進みやすく、水分制限は肺血栓塞栓症リスクを高めます。

  2. 2.  肺血栓塞栓症( pulmonary thromboembolism )を予防する。

    四肢の不動により深部静脈血栓が形成されやすく、血栓が肺動脈に飛んで肺血栓塞栓症を引き起こす危険があります。弾性ストッキングの使用、他動運動、水分補給、定期的な四肢の動きの確認など予防が必須です。

  3. 3.  頻回に様子を見に来ることを伝える。

    拘束中の患者は強い不安・孤立感を抱えやすく、頻回訪問を予告することで見捨てられ感を軽減し安心感を与えられます。精神保健福祉法でも常時の臨床的観察が規定されており、約束を守ることが信頼関係構築にもつながります。

  4. × 4.  身体的拘束の原因となった行為を一緒に振り返る。

    興奮状態が続く段階での振り返りはかえって刺激となり、患者の精神状態を悪化させる恐れがあります。振り返りは状態が十分に落ち着いた後の治療的介入として行うべきです。

  5. × 5.  興奮状態が落ち着いたら看護師の判断で身体的拘束を解除する。

    身体的拘束は精神保健指定医の指示により行われ、解除についても医師の指示が必要です。看護師単独の判断で解除することは法的にも許されません。

精神保健福祉法第36条に基づく身体的拘束は、自傷や多動による生命の危険を避けるために行う最終手段です。開始・継続・解除すべて精神保健指定医の判断が必要で、12時間を超える場合は指定医の診察が欠かせません。看護師は肺血栓塞栓症、褥瘡、関節拘縮、脱水の予防と尊厳保持に留意します。

身体的拘束中に生じやすい合併症の予防と、患者の精神的ケア、そして拘束の開始・解除の権限について理解しているかを問う問題です。