StudyNurse

むせないのに口に食べ物が残る――嚥下のどこが弱っている?

看護師国家試験 第109回 午後 第72問 / 地域・在宅看護論 / 症状・疾患・治療に応じた看護

国試問題にチャレンジ

109回 午後 第72問

Aさん( 78 歳、男性)は、妻( 75 歳)と 2 人暮らし。脳梗塞( cerebral infarction )の既往がある。妻から「最近、夫は食事をむせずに食べることができるが、口の中に食べ物が残っていることが多い。夫の食事について助言が欲しい」と訪問看護師に相談があった。 妻への訪問看護師の助言で適切なのはどれか。

  1. 1.「食事にとろみをつけましょう」
  2. 2.「自助具を使って食事をしましょう」
  3. 3.「口に入れる 1 回量を少なくしましょう」
  4. 4.「食事前に舌の動きを促す運動をしましょう」

対話形式の解説

博士 博士

今日は在宅での嚥下ケアについて考えるぞ。Aさんは78歳、脳梗塞の既往があり、妻から『むせはないが口の中に食べ物が残る』と相談された場面じゃ。

アユム アユム

むせていないから誤嚥はなさそうですね。でも口に残るのはなぜですか?

博士 博士

良い着眼点じゃ。嚥下は5期モデルで考える。先行期で食べ物を認知し、準備期で咀嚼して食塊を作り、口腔期で舌が咽頭へ送り込み、咽頭期で飲み込み、食道期で胃へ届ける。どこが問題じゃろう?

アユム アユム

うーん、むせは咽頭期のサインですよね?じゃあ口腔に残るのは…口腔期の問題?

博士 博士

その通り!舌が食塊を咽頭へ送り込む機能、つまり口腔期が低下しておる。脳梗塞後は舌の筋力や巧緻性が落ちることがあるからの。

アユム アユム

ということは、舌を鍛える運動が必要ですね。選択肢4が正解かな。

博士 博士

正解じゃ。食前に舌の前後・左右運動や、パタカラ体操を行うと嚥下関連筋群がウォームアップされて送り込みがスムーズになる。

アユム アユム

パタカラ体操って具体的にどんなものですか?

博士 博士

『パ』『タ』『カ』『ラ』と大きな声で発音する運動じゃ。『パ』は口唇閉鎖、『タ』は舌尖の挙上、『カ』は奥舌の挙上、『ラ』は舌の巧緻性を鍛える。それぞれが嚥下の異なる段階に対応しておるのじゃ。

アユム アユム

とろみをつけるのはダメなんですか?

博士 博士

とろみは咽頭期障害=むせがある場合の対策じゃ。むせのないAさんに使うと逆に口腔内に残りやすくなって状態を悪化させる可能性があるぞ。

アユム アユム

一口量を減らすのも違うんですね。

博士 博士

一口量調整は誤嚥予防には有効じゃが、送り込み機能そのものは改善せん。根本的な機能訓練である舌運動のほうが優先じゃ。

アユム アユム

自助具は手の動きに問題がある場合の対策ですよね。

博士 博士

その通り。Aさんに摂食動作の情報がないので除外じゃな。在宅療養者の誤嚥性肺炎は死因上位を占めるから、『むせ』がなくても嚥下機能低下のサインを見逃さず、予防的介入につなげる視点が大切じゃ。

アユム アユム

症状から障害部位を推定してケアを組み立てる――看護の面白さが凝縮されていますね。

POINT

本問は、高齢脳梗塞後のAさんに生じている『むせはないが口腔内に食物残渣が残る』症状から、嚥下の口腔期障害を読み取り、適切な在宅ケアを選ぶ問題です。口腔期は舌の筋力と協調運動で食塊を咽頭に送り込む段階で、脳血管障害後に機能低下しやすい部位です。食事前の舌運動(パタカラ体操など嚥下体操)は、嚥下筋群を賦活し送り込み機能を改善する有効な方法です。とろみ付けは咽頭期障害、自助具は摂食動作障害、一口量調整は誤嚥リスクが主な対象で、本事例には適合しません。症状から嚥下の5期モデルのどこに障害があるかを推定し、段階に合わせて介入を選ぶ思考プロセスは、在宅高齢者の誤嚥性肺炎予防の要となる実践能力です。

解答・解説

正解は 4 です

問題文:Aさん( 78 歳、男性)は、妻( 75 歳)と 2 人暮らし。脳梗塞( cerebral infarction )の既往がある。妻から「最近、夫は食事をむせずに食べることができるが、口の中に食べ物が残っていることが多い。夫の食事について助言が欲しい」と訪問看護師に相談があった。 妻への訪問看護師の助言で適切なのはどれか。

解説:正解は 4 です。Aさんは『むせなく飲み込めているが口腔内に食物残渣が残る』状態で、これは嚥下プロセスのうち『口腔期(口腔相)』の障害を示唆します。口腔期では舌や頬、下顎の協調運動により食塊を咽頭へ送り込みますが、脳梗塞後の舌筋力低下や巧緻性低下によりこの機能が低下している可能性があります。食事前に舌の運動(パタカラ体操、舌の前後・左右運動、押し付け運動など)を行うことで口腔期機能を賦活し、食物残渣を減らすことが期待できます。

選択肢考察

  1. × 1.  「食事にとろみをつけましょう」

    とろみ付けは咽頭期の障害、つまり『むせ』や誤嚥がある場合に有効な対策。Aさんはむせていないため咽頭期には問題がなく、不必要にとろみをつけると逆に口腔内残渣が増える恐れもある。

  2. × 2.  「自助具を使って食事をしましょう」

    自助具は片麻痺や手指巧緻性低下などで食具の操作が困難な場合に用いる。Aさんに摂食動作の問題があるという情報はなく、口腔内残渣の解決策にはならない。

  3. × 3.  「口に入れる 1 回量を少なくしましょう」

    一口量の調整は誤嚥予防として重要な手段だが、Aさんは誤嚥(むせ)がない。量を減らしても舌の送り込み機能自体は改善しないため、根本的な対策となる舌運動の促進のほうが優先される。

  4. 4.  「食事前に舌の動きを促す運動をしましょう」

    口腔期障害への直接的なアプローチ。舌の前後・左右・上下運動、頬の膨らませ運動、パタカラ体操などを食前に行うことで嚥下関連筋群をウォームアップし、食塊形成と咽頭への送り込みを改善できる。

摂食嚥下は『先行期→準備期→口腔期→咽頭期→食道期』の5期モデルで理解する。症状から障害部位を推定する訓練が重要で、『むせ』『湿性嗄声』『咳込み』は咽頭期、『口腔内残渣』『こぼし』『食塊形成困難』は準備期・口腔期を示唆する。嚥下体操の代表が『パタカラ体操』で、『パ』は口唇閉鎖、『タ』は舌尖の挙上、『カ』は奥舌の挙上、『ラ』は舌の巧緻運動を鍛える。脳梗塞後の嚥下障害は高齢者の誤嚥性肺炎の大きな原因となるため、在宅での予防的ケアが極めて重要。

嚥下プロセスのどの段階が障害されているかを症状から判断し、それに応じた具体的助言を選ぶ問題。『むせなし+口腔内残渣』は口腔期障害がキーワード。