半側空間無視の食事介助:なぜ食器の位置を動かすのか
看護師国家試験 第109回 午後 第98問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 72 歳、男性)は、2 か月前に右中大脳動脈領域の脳梗塞( cerebral infarction )を発症した。本日、病院を退院し、介護老人保健施設に入所した。 既往歴: 1 年前に前立腺癌( prostatic cancer )のため腹腔鏡下前立腺全摘除術。 身体所見:左上下肢に軽度のしびれがある。半側空間無視がある。構音障害はない。 生活機能:改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈 HDS − R 〉26 点、Barthel〈バーセル〉 インデックス 65 点。 入所後 2 日、Aさんは箸を使って食事をするが、いつも左側に置かれた食器には食べ残しがあった。 Aさんへの対応で適切なのはどれか。
- 1.スプーンの使用を勧める。
- 2.反復唾液嚥下テストを行う。
- 3.食事の途中で食器の配置を変える。
- 4.食器の下に滑り止めマットを敷く。
対話形式の解説
博士
今日は半側空間無視のある患者さんへの食事介助じゃ。Aさんは右中大脳動脈領域の脳梗塞で、左側の食器を食べ残してしまう。
アユム
半側空間無視って、左側が見えていないということですか?
博士
正確には視覚そのものではなく、注意が左に向かない状態じゃ。目は見えているのに脳が認識しないのじゃな。
アユム
右半球の病変で左が無視されるのはなぜですか?
博士
右半球は左右両方の空間に注意を分配するが、左半球は右空間に主に注意を向ける。だから右半球が障害されると左の空間が無視されやすい。
アユム
車椅子で左側にぶつかったり、化粧を左だけ忘れるのもこれですか?
博士
その通り。食事では左の食器を食べ残し、線分を描けば左側を描き落とす。線分2等分試験では中央ではなく右寄りに印をつけてしまう。
アユム
Aさんへの食事介助ではどうすればいいですか?
博士
選択肢3の「食事の途中で食器の配置を変える」が正解じゃ。途中で左の食器を右側(認知できる側)に移せば、Aさんが気づいて食べられる。
アユム
最初から全部右に置いてしまうのはどうですか?
博士
最初から右に寄せすぎると左側への注意訓練にならん。途中で動かすことで、左空間への気づきを促す意味合いもあるのじゃ。
アユム
スプーンに変える必要はないんですね。
博士
Aさんは箸で食べられているし、上肢麻痺や握力低下の記載もない。道具変更の必要はない。
アユム
反復唾液嚥下テストは?
博士
これは嚥下障害のスクリーニング。Aさんにはむせや構音障害はなく、問題は「食べ残し」つまり認知じゃ。嚥下機能検査は的外れじゃ。
アユム
滑り止めマットも今回は不要ですね。
博士
その通り。片手食事や握力低下の患者には有用じゃが、Aさんには該当しない。
アユム
半側空間無視がある患者さんでは、どんな転倒リスクがありますか?
博士
無視側の障害物に気づかず衝突する、車椅子のブレーキを左側だけかけ忘れる、段差を認識できず転倒するなどじゃ。環境側からの安全対策が重要じゃぞ。
アユム
無視側から声をかけて注意を向けさせるのも大事ですよね。
POINT
半側空間無視では、無視側にあるものを認知できず食事の食べ残しや着衣の偏りなどが生じます。Aさんの場合、食事途中で食器を認知側(右側)に移動することで摂取量を確保しつつ、左側への注意を促す介入が可能です。スプーンや滑り止めマットといった動作支援、嚥下テストは今回のアセスメントに合致しません。看護では、無視側からの声かけ、視覚的手がかりの付与、車椅子操作や歩行時の安全確保など、日常生活全般にわたる総合的な支援が求められます。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 72 歳、男性)は、2 か月前に右中大脳動脈領域の脳梗塞( cerebral infarction )を発症した。本日、病院を退院し、介護老人保健施設に入所した。 既往歴: 1 年前に前立腺癌( prostatic cancer )のため腹腔鏡下前立腺全摘除術。 身体所見:左上下肢に軽度のしびれがある。半側空間無視がある。構音障害はない。 生活機能:改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈 HDS − R 〉26 点、Barthel〈バーセル〉 インデックス 65 点。 入所後 2 日、Aさんは箸を使って食事をするが、いつも左側に置かれた食器には食べ残しがあった。 Aさんへの対応で適切なのはどれか。
解説:正解は 3 です。Aさんは右半球病変に伴う左半側空間無視があり、左側の食器を認知できずに食べ残している。対応としては、食事の途中で食器の配置を変え、認知できている右側視野に食器を移動することで摂取量を確保できる。また、食事中に看護師が声かけや軽い誘導で左側への注意を促すことも有効である。
選択肢考察
-
× 1. スプーンの使用を勧める。
Aさんは箸で食事動作自体は問題なく行えており、上肢麻痺や握力低下の記載もない。道具を変える必要性はない。
-
× 2. 反復唾液嚥下テストを行う。
反復唾液嚥下テスト(RSST)は嚥下機能スクリーニング。Aさんにはむせや構音障害がなく、食べ残しは嚥下障害ではなく空間認識の問題。
-
○ 3. 食事の途中で食器の配置を変える。
半側空間無視では左側の物体認識が困難。途中で右側(健側視野)に食器を移動すれば、Aさんが認知し摂取できる。
-
× 4. 食器の下に滑り止めマットを敷く。
滑り止めマットは片手食事や握力低下の患者向け。Aさんは箸を使えており食器が滑る問題ではない。
半側空間無視は右半球(特に下頭頂小葉)の病変で左空間の認知が低下する症候。特徴として①線分2等分試験で右寄りに印をつける、②模写で左側を描き落とす、③ヒゲ剃り・化粧・食事で左側を無視、④車椅子操作で左側にぶつかるなど。対応は無視側からの声かけで注意を促す、環境を整える(病室・食卓の配置を工夫)、視覚的手がかり(左端に赤テープ)をつけるなど。リハビリでは注意訓練、プリズム順応療法なども行われる。半側感覚無視や病態失認(自分の麻痺に気づかない)を合併することも多く、転倒リスク管理が重要である。
半側空間無視の患者への食事支援で、無視側を認知させるための工夫として「食器の配置変更」が適切であることを問う。
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