着衣に戸惑う脳梗塞患者:服の「向き」が鍵
看護師国家試験 第109回 午後 第99問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 72 歳、男性)は、2 か月前に右中大脳動脈領域の脳梗塞( cerebral infarction )を発症した。本日、病院を退院し、介護老人保健施設に入所した。 既往歴: 1 年前に前立腺癌( prostatic cancer )のため腹腔鏡下前立腺全摘除術。 身体所見:左上下肢に軽度のしびれがある。半側空間無視がある。構音障害はない。 生活機能:改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈 HDS − R 〉26 点、Barthel〈バーセル〉 インデックス 65 点。 入所後 3 日、Aさんは入浴した。Aさんは自分で脱衣し、体を洗えたが、洗い残した部分を看護師が介助した。入浴後に看護師がAさんに服を手渡すと、Aさんは戸惑った表情で服を丸めたり広げたりしている。 Aさんへの更衣援助で最も適切なのはどれか。
- 1.着替え始めるまで待つ。
- 2.伸縮性のある素材の服を渡す。
- 3.服を着やすい向きに持たせる。
- 4.ボタンをマジックテープに変えた服を渡す。
対話形式の解説
博士
今日はAさんの入浴後の更衣場面じゃ。脱衣は自分でできた、体も洗えた。でも服を渡されたら戸惑って丸めたり広げたり。さてどう支援する?
サクラ
HDS-R 26点なので認知症ではないですよね?
博士
うむ、認知機能はほぼ正常域じゃ。だが半側空間無視があるから、服全体の空間構造、つまり前後・左右・上下を一度に把握するのが難しくなっておる。
サクラ
着衣失行という言葉もありますよね?
博士
鋭い。着衣失行は主に頭頂葉病変で生じ、服の構造を理解できず裏返しに着たり腕が袖に入らなかったりする。今回はそこまで重度ではないが、空間認識の問題で戸惑っていると考えられる。
サクラ
対応としては「服を着やすい向きに持たせる」が良さそうですね。
博士
正解!襟が上、前身頃が手前になるように渡せば、Aさんは「ここが首、ここが腕」と理解できて動作を続けられる。
サクラ
「着替え始めるまで待つ」ではダメですか?
博士
認知症なら考慮の余地もあるが、Aさんは戸惑いが続いていて体温低下や混乱のリスクがある。タイミング良いきっかけの援助が必要じゃ。
サクラ
伸縮性のある素材にするのは?
博士
脱衣は自分でできたから、素材の問題ではない。関節可動域制限や筋力低下があれば有効じゃが、本ケースではズレておる。
サクラ
マジックテープの服は?
博士
ボタン操作は脱衣時にできておるので、ボタン自体が原因ではない。向きがわからず戸惑っているのじゃ。
サクラ
脳梗塞後の更衣介助で、片麻痺のある人はどんな順番で着るんですか?
博士
原則は「着るときは麻痺側から、脱ぐときは健側から」じゃ。着衣時は動かしにくい側を先に通し、脱衣時は動く側から抜くと楽になる。
サクラ
Aさんは軽度しびれ程度ですが、この原則を意識すると良いですね。
博士
うむ。そして看護のポイントは「先回りしすぎない」こと。全介助にすると残存機能が衰える。動作が滞った部分だけ最小限の援助で自立を促すのじゃ。
サクラ
残存機能を活かす視点、リハビリの考えと同じですね。
博士
老健はまさに在宅復帰に向けたリハビリの場じゃから、自立支援の視点が欠かせん。
サクラ
服の向きを整えるだけで、ここまで意味があるんですね。
POINT
脳梗塞後の更衣で戸惑う患者には、半側空間無視や軽度の着衣失行の影響で服の空間構造を把握しにくくなっていることが多く見られます。Aさんのように脱衣やボタン操作ができていても、受け取った服の前後・上下がわからず動作が止まってしまう場合、襟を上、前身頃を手前にして「着やすい向き」で手渡すことが最適な援助です。全介助は避けつつ、戸惑いの原因に直接対応する最小限の介入こそが自立支援の基本となります。片麻痺患者では「着患脱健」の原則も併せて覚えておくと、更衣援助の幅が広がります。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 72 歳、男性)は、2 か月前に右中大脳動脈領域の脳梗塞( cerebral infarction )を発症した。本日、病院を退院し、介護老人保健施設に入所した。 既往歴: 1 年前に前立腺癌( prostatic cancer )のため腹腔鏡下前立腺全摘除術。 身体所見:左上下肢に軽度のしびれがある。半側空間無視がある。構音障害はない。 生活機能:改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈 HDS − R 〉26 点、Barthel〈バーセル〉 インデックス 65 点。 入所後 3 日、Aさんは入浴した。Aさんは自分で脱衣し、体を洗えたが、洗い残した部分を看護師が介助した。入浴後に看護師がAさんに服を手渡すと、Aさんは戸惑った表情で服を丸めたり広げたりしている。 Aさんへの更衣援助で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 3 です。Aさんは脱衣は自分でできた一方、受け取った服をどう着てよいか戸惑っている。HDS-R 26点で認知機能はほぼ正常であり、半側空間無視が関係している可能性が高い。服の襟・袖・裾などの位置関係を把握しにくくなっているため、着やすい向き(襟を上・前身頃を手前など)で手渡すと、Aさんが自力で続きの動作を再開しやすくなる。
選択肢考察
-
× 1. 着替え始めるまで待つ。
Aさんは戸惑って動作が停滞しており、放置すれば混乱や疲労、体温低下を招く。認知機能はほぼ保たれているため、きっかけの援助で自立を促すほうが適切。
-
× 2. 伸縮性のある素材の服を渡す。
脱衣は自力で行えており、素材の問題ではない。筋力低下や関節可動域制限があれば有効だが、本ケースでは的外れ。
-
○ 3. 服を着やすい向きに持たせる。
半側空間無視などで服の向きが把握しにくくなっている可能性があり、前後・上下が一目でわかるように渡すことで、Aさんが着衣動作を継続しやすくなる。
-
× 4. ボタンをマジックテープに変えた服を渡す。
脱衣時に自力で衣服を扱えていることから、ボタン操作そのものは問題ではない。前後関係の把握が課題である。
脳梗塞後の更衣障害には複数の要因が関与する。①半側空間無視:服の左側を認知できず袖に腕を通せない、②着衣失行(特に頭頂葉病変):服の空間的構造を理解できず裏表・前後がわからない、③片麻痺:麻痺側から袖を通す・脱ぐ時は健側からなどの原則がある。看護援助の基本は「先回りしすぎず、動作が滞った部分だけを補助する」こと。全介助ではなく自立の機会を残すことで、ADL維持とリハビリ効果が高まる。
脳梗塞後の更衣動作支援では、残存機能を活かしつつ、戸惑いの原因(空間認知の低下)に直接対応する援助を選ぶ。
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