「自分で注射なんてできない」 ―8歳の壁を越えるピアサポートの力
看護師国家試験 第109回 午前 第104問 / 小児看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 A君( 8 歳、男児、小学 3 年生)は、父親( 40 歳、会社員)と母親( 38 歳、主婦)との 3 人暮らし。多飲と夜尿を主訴に小児科を受診した。尿糖 4 + のため、1 型糖尿病( type 1 diabetes mellitus )の疑いで病院に紹介され、精密検査を目的に入院した。A君は身長 123 cm、体重 27.5 kg( 1 か月前の体重は 29.5 kg )。入院時のバイタルサインは、体温 36.9 ℃、脈拍 100 /分、血圧 98 / 42 mmHg。随時血糖 300 mg /dL、HbA1c 9.3 %、抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ〈 GAD 〉抗体陽性。尿糖 4 +、尿ケトン体 3 +。血液ガス分析 pH 7.02 であった。 入院後、インスリンの持続点滴静脈内注射が開始された。入院後 3 日に血糖値が安定し、インスリンの持続点滴静脈内注射が中止された。ペン型注射器によるインスリン療法が開始され、看護師は母親とA君に自己血糖測定とインスリン自己注射について説明した。A君は「自分で注射するなんてできない」と言ってインスリン自己注射の練習が進まない。 A君への看護師の対応で最も適切なのはどれか。
- 1.インスリン自己注射の必要性を繰り返し説明する。
- 2.A君が納得するまで母親にインスリン注射をしてもらう。
- 3.インスリン自己注射ができるようになったら退院できると話す。
- 4.インスリン自己注射をしている同年代の糖尿病患児と話す機会を作る。
対話形式の解説
博士
続いて、A君が自己注射を怖がっている場面じゃ。どう関わるのが最適じゃろう?
アユム
8歳だと怖がるのも自然ですよね。繰り返し説明して理解してもらうのが大事かなと。
博士
ふむ、一見正しそうじゃが、知識だけで恐怖心は消えん。A君に必要なのは「自分にもできそうだ」という実感、つまり自己効力感じゃ。
アユム
自己効力感…バンデューラの概念ですよね。
博士
その通り!自己効力感を高める最大の源は「代理体験」、つまり自分と似た他者が成功している姿を見ることじゃ。だから同年代で同じ治療をしている子と話す機会を作る4番が最適解になる。
アユム
なるほど!「8歳の○○くんも自分で打ってるよ」と知ったら、「僕にもできるかも」って思えますね。
博士
うむ。エリクソンの発達段階では学童期は「勤勉性 対 劣等感」の時期。仲間との関わりと達成体験が自己概念形成に重要じゃ。小児糖尿病サマーキャンプや患者会はまさにこの原理を活かした支援じゃよ。
アユム
2の母親に代わりに打ってもらうのはダメですか?
博士
短期的には母親が打つこともあるが、長期的に依存させてはいかん。A君はあと10年で成人、20年で家族を持つ。その間ずっと自己管理していく病気じゃから、学童期から徐々に自立を支援する必要がある。
アユム
3の「できたら退院」は?
博士
退院をエサにすると治療が罰や義務になって、余計に嫌になる。信頼関係も損なうから避けるべきじゃな。
アユム
1の繰り返し説明もダメ…
博士
情報提供は大事じゃが、それだけでは解決せん。恐怖心には共感的関わりと代理体験、段階的な練習を組み合わせることが大事じゃ。
アユム
段階的な練習って?
博士
スモールステップじゃ。①まずペン型注射器に触れてみる、②シミュレーター(食品スポンジなど)で練習、③家族の腹部に打つ真似、④細い針で自分の腹部に、という段階を踏む。成功体験を積み重ねると自己効力感が育つのじゃ。
アユム
学校での注射はどうするんですか?
博士
学校との連携が超重要じゃ。担任・養護教諭に病気を説明し、保健室で注射できる場所を確保してもらう。給食前の注射、低血糖時の補食、運動前後の対応など、学校生活のルールを一緒に作る必要がある。
アユム
家族だけじゃなく学校全体で支える感じですね。
博士
その通り。小児慢性疾患は「子ども+家族+学校+医療」の四者連携が成功のカギじゃ。A君がサマーキャンプに参加できれば、同世代の仲間と出会い、一生の宝になるぞ。
POINT
学童期のA君がインスリン自己注射を怖がって練習が進まない場面では、同じ疾患・同じ治療をしている同年代の患児と話す機会を作ることが最も適切な対応です。ピアサポートは「自分だけじゃない」という安心感と「自分にもできる」という自己効力感を生み、恐怖心の軽減に大きく寄与します。必要性の繰り返し説明や退院を条件にする関わりはプレッシャーになり、母親に代行させ続けることは自立を妨げます。小児慢性疾患の支援は家族・学校・医療・仲間の四者連携が重要で、日本小児糖尿病学会主催のサマーキャンプなども活用できます。発達段階に即した共感的関わりと段階的練習、ピアサポートの組み合わせが成功のカギです。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 A君( 8 歳、男児、小学 3 年生)は、父親( 40 歳、会社員)と母親( 38 歳、主婦)との 3 人暮らし。多飲と夜尿を主訴に小児科を受診した。尿糖 4 + のため、1 型糖尿病( type 1 diabetes mellitus )の疑いで病院に紹介され、精密検査を目的に入院した。A君は身長 123 cm、体重 27.5 kg( 1 か月前の体重は 29.5 kg )。入院時のバイタルサインは、体温 36.9 ℃、脈拍 100 /分、血圧 98 / 42 mmHg。随時血糖 300 mg /dL、HbA1c 9.3 %、抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ〈 GAD 〉抗体陽性。尿糖 4 +、尿ケトン体 3 +。血液ガス分析 pH 7.02 であった。 入院後、インスリンの持続点滴静脈内注射が開始された。入院後 3 日に血糖値が安定し、インスリンの持続点滴静脈内注射が中止された。ペン型注射器によるインスリン療法が開始され、看護師は母親とA君に自己血糖測定とインスリン自己注射について説明した。A君は「自分で注射するなんてできない」と言ってインスリン自己注射の練習が進まない。 A君への看護師の対応で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。8歳の学童期は、エリクソンの発達理論では「勤勉性 対 劣等感」の時期にあたり、同年代の仲間との関わりや達成体験が自己概念形成に重要です。A君の「自分で注射するなんてできない」という訴えには恐怖心と自信のなさが含まれており、同じ疾患・同じ治療をしている仲間の存在を知ることが大きな動機づけになります。ピアサポート(同病の仲間との交流)は、小児糖尿病サマーキャンプや患者会でも広く活用されている確立した支援方法で、「自分だけじゃない」「自分にもできるかも」という実感を得られることが自己注射習得への最大の推進力となります。
選択肢考察
-
× 1. インスリン自己注射の必要性を繰り返し説明する。
必要性の知識だけでは恐怖心や自信のなさは解消しない。説明を繰り返すことはかえってプレッシャーとなり、心理的抵抗を強める可能性がある。
-
× 2. A君が納得するまで母親にインスリン注射をしてもらう。
母親依存を長引かせると、学校生活での自立が困難になり、自己管理能力の獲得も遅れる。A君の発達段階からも自己効力感を奪ってしまう。
-
× 3. インスリン自己注射ができるようになったら退院できると話す。
退院を条件にすると治療が罰や義務として意識され、プレッシャーで余計に手技を嫌う可能性がある。信頼関係を損ない長期的な自己管理にも悪影響。
-
○ 4. インスリン自己注射をしている同年代の糖尿病患児と話す機会を作る。
ピアサポートにより「自分と同じ年の子ができている」という具体的イメージが持て、恐怖心が軽減し自己効力感が高まる。学童期の発達特性に即した効果的介入。
小児1型糖尿病の心理社会的支援では①発達段階に応じた説明(学童期は具体的・視覚的に)、②自己効力感を高めるスモールステップ(まず機器に触れる→シミュレーターで練習→腹部に打つなど段階的に)、③ピアサポート(サマーキャンプ、患者会、オンラインコミュニティ)、④家族教育(母親一人に負担を集中させない)、⑤学校との連携(養護教諭・担任への情報提供、保健室での注射場所確保)が重要。日本小児糖尿病学会主催のサマーキャンプは毎年全国で開催され、仲間との交流と自己管理習得の場となっている。
学童期の発達段階と心理的特性を踏まえた、インスリン自己注射導入への支援方法を問う問題。ピアサポートの有効性がキーワード。
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