統合失調症の家族を支える、家族心理教育の意義
看護師国家試験 第105回 午後 第111問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(19歳、男性、大学生)は、実家近くのアパートに1人で暮らしている。ある日、線路沿いの道を裸足で歩きながら険しい表情でカッターナイフを振り回し、ぶつぶつと独り言を言い続けていたことから警察に保護された。Aさんは、警察から連絡を受けた両親とともに精神科病院を受診したが「自分は命を狙われている」、「この人たちは自分の親じゃない」と言い、医療者に対しても拒否的な態度をとっている。診察の結果、Aさんは統合失調症(schizophrenia)と診断された。Aさんの頭髪は乱れ、食事や睡眠がとれていない様子であったため、そのまま医療保護入院をすることになった。 Aさんの入院後2週が経過した。Aさんの母親が疲れた表情で「Aはまだ誰かに殺されるのではないかと怖がっています。Aはなぜこんな病気になったのでしょうか。親としてどのようにAに接したらよいか分かりません」と担当の看護師に相談してきた。 この時点でAさんの両親に勧めるのはどれか。
- 1.毎日の面会
- 2.家族心理教育
- 3.Aさんとの同伴での外出
- 4.共同生活援助〈グループホーム〉の見学
対話形式の解説
博士
博士じゃ。入院2週後、Aさんの母親が疲れた表情で「なぜこんな病気になったのか、どう接すればいいか分からない」と看護師に相談してきた。両親に勧めるものは何かじゃ。
サクラ
母親は疲労、自責感、戸惑いを抱えていますね。まず何を優先すべきでしょうか。
博士
家族支援の基本を思い出そう。家族は患者のケアに関わる重要な資源であると同時に、自身も支援を必要とする存在じゃ。この二重の立場を理解することが鍵じゃの。
サクラ
選択肢2の家族心理教育が正解のようですが、どんなプログラムなんですか?
博士
家族心理教育とは、統合失調症などの精神疾患について家族が正しい知識を得て、症状への対応方法、服薬の重要性、コミュニケーションの工夫、再発の前兆の見分け方などを体系的に学ぶ支援じゃ。
サクラ
エビデンスはあるんですか?
博士
英国リーフらの研究をはじめ多くの試験で、統合失調症の再発率を約半分に下げると示されておる。世界の治療ガイドラインでも強く推奨される介入じゃ。
サクラ
「感情表出」という概念を聞いたことがあります。
博士
Expressed Emotion、EEじゃな。批判的、敵対的、情緒的巻き込み過剰な家族環境は高EEと呼ばれ、再発リスクが高い。心理教育ではこの高EEを低EEに変えるコミュニケーション技法を学ぶんじゃ。
サクラ
母親が「なぜこんな病気に」と自問しているのも、自責感からですよね。
博士
そうじゃ。多くの家族は「自分の育て方が悪かったのでは」と考えがちじゃが、統合失調症は遺伝的素因と神経発達、ストレスが複合する疾患で、育て方が原因ではないと科学的に明らかにされておる。これを学ぶだけでも家族の負担は大きく軽くなる。
サクラ
選択肢1の「毎日の面会」はどうですか?
博士
不適切じゃ。母親はすでに疲弊しておる。毎日の面会を義務化すると疲労が蓄積し、かえって関係が悪化する。面会頻度は本人の状態と家族の余力を見ながら柔軟に決めるべきじゃ。
サクラ
3の「Aさんとの同伴外出」は?
博士
時期尚早じゃ。Aさんはまだ「殺されるのでは」という被害妄想が残る急性期。外出は状態悪化や事故のリスクが高い。本人の安定と治療計画の進行を見てから判断する。
サクラ
4の「グループホーム見学」は?
博士
退院後の住まいの選択肢として有用じゃが、入院2週ではまだ早い。退院時期が見えてきた段階で検討する。
サクラ
家族心理教育はどこで受けられますか?
博士
病院の多職種プログラム、保健所や精神保健福祉センターの家族教室、家族会、NPOの支援グループなど多様じゃ。日本ではSSTや心理教育と組み合わせた「統合型家族支援プログラム」も普及しておる。
サクラ
家族会の意義も大きいそうですね。
博士
同じ悩みを持つ仲間と経験を共有できることは、専門家では得られぬ安心感じゃ。「自分だけではない」という実感が回復を支える大きな力となる。
サクラ
看護師として母親にどう声をかけますか?
博士
まず「お疲れですね、不安なお気持ちはよく分かります」と感情を受け止める。次に「Aさんの病気は育て方のせいではないですよ」と科学的事実を伝え、家族心理教育という学べる場があることを紹介する。
サクラ
家族を支えることが、Aさん本人の回復にもつながるのですね。
博士
その通り。精神科看護は患者と家族の両者を視野に入れた統合的支援じゃ。家族が落ち着けば家庭は安全基地となり、再発予防と社会復帰を支える土台になるのじゃ。
POINT
統合失調症の家族支援では、疲労と自責感を抱える両親に家族心理教育を勧めることが最も適切です。疾患知識、感情表出の調整、再発予防を学ぶことで家族の負担軽減と患者の再発予防が同時に実現します。急性期段階での毎日面会や同伴外出、グループホーム見学は時期尚早で、母親の状態と本人の治療経過に合わせた段階的支援が看護の基本です。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:次の文を読み、問いに答えよ。 Aさん(19歳、男性、大学生)は、実家近くのアパートに1人で暮らしている。ある日、線路沿いの道を裸足で歩きながら険しい表情でカッターナイフを振り回し、ぶつぶつと独り言を言い続けていたことから警察に保護された。Aさんは、警察から連絡を受けた両親とともに精神科病院を受診したが「自分は命を狙われている」、「この人たちは自分の親じゃない」と言い、医療者に対しても拒否的な態度をとっている。診察の結果、Aさんは統合失調症(schizophrenia)と診断された。Aさんの頭髪は乱れ、食事や睡眠がとれていない様子であったため、そのまま医療保護入院をすることになった。 Aさんの入院後2週が経過した。Aさんの母親が疲れた表情で「Aはまだ誰かに殺されるのではないかと怖がっています。Aはなぜこんな病気になったのでしょうか。親としてどのようにAに接したらよいか分かりません」と担当の看護師に相談してきた。 この時点でAさんの両親に勧めるのはどれか。
解説:正解は 2 です。家族心理教育は、統合失調症などの精神疾患を持つ家族に対し、疾患の正しい知識、症状への対応、服薬の重要性、コミュニケーション技法、再発予防などを体系的に学ぶ支援プログラムです。母親は疲労と自責感、接し方への戸惑いを抱えており、ここで家族心理教育を勧めることは、母親の負担軽減・自責感の緩和・Aさんとの建設的な関わりの基盤づくりにつながります。家族心理教育は統合失調症の再発率を有意に下げるエビデンスのある介入として推奨されています。
選択肢考察
-
× 1. 毎日の面会
母親は既に疲弊しており、毎日の面会を義務化するとさらに疲労を増やし、家族関係の悪化にもつながります。面会頻度は本人の状態と家族の余力を見て個別化すべきです。
-
○ 2. 家族心理教育
疾患理解、症状への対応、EE(感情表出)の調整、再発予防を学ぶ体系的支援であり、家族の不安と自責感を軽減し、Aさんの回復にも寄与するエビデンスの確立された介入です。
-
× 3. Aさんとの同伴での外出
Aさんは「殺されるのではないか」と恐怖を抱える急性期の陽性症状が残存しており、外出は状態悪化や事故のリスクが高く時期尚早です。
-
× 4. 共同生活援助〈グループホーム〉の見学
グループホームは退院後の住まいの選択肢のひとつですが、入院2週の急性期段階では早すぎます。退院時期が見えてきた段階で検討すべきです。
家族心理教育(Family Psychoeducation)は、英国リーフの研究などで統合失調症の再発率を約半減させることが示された根拠に基づく支援です。中心概念の一つに「感情表出(Expressed Emotion: EE)」があり、批判的・敵対的・情緒的巻き込み過剰な家族関係(高EE)では再発リスクが高まることが知られています。心理教育では低EEのコミュニケーションを学び、家族自身の疲弊を防ぐ自己ケアも扱います。日本では家族会、SST、多職種家族支援プログラムなどが利用可能で、保健所や精神保健福祉センターでも実施されています。
統合失調症患者の家族が抱える自責感・接し方の困惑に対し、家族心理教育を勧めることの意義と根拠を理解しているかを問う設問です。
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