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がん悪液質は『食べられない・痩せる』 栄養サポートでは止まらない代謝異常

看護師国家試験 第109回 午前 第89問 / 成人看護学 / 終末期看護

国試問題にチャレンジ

109回 午前 第89問

終末期がん患者にみられる悪液質の徴候はどれか。2 つ選べ。

  1. 1.末梢神経障害
  2. 2.リンパ浮腫
  3. 3.がん疼痛
  4. 4.食欲不振
  5. 5.体重減少

対話形式の解説

博士 博士

今日は終末期がん患者の悪液質を学ぶぞ。

サクラ サクラ

悪液質って言葉、聞いたことはありますが詳しく知りません。

博士 博士

2011年のEPCRC定義では『通常の栄養サポートでは完全に回復できない進行性の機能障害で、骨格筋量の持続的減少を特徴とする多因子性症候群』じゃ。つまり普通に食べさせても改善しない代謝異常じゃな。

サクラ サクラ

中核症状は?

博士 博士

進行性の体重減少、食欲不振、サルコペニア(骨格筋減少)。がん患者の約80%が経験し、特に進行期・終末期で顕著になる。

サクラ サクラ

だから選択肢4の食欲不振と5の体重減少が正解なんですね。

博士 博士

その通り。診断基準は6か月で5%超の体重減少、またはBMI<20で2%超減少、またはサルコペニア合併で2%超減少、のいずれかじゃ。

サクラ サクラ

機序はどうなっているんですか?

博士 博士

腫瘍由来因子(PIF:proteolysis-inducing factorなど)と炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6)が全身に作用し、(1)視床下部の食欲中枢を抑制、(2)筋蛋白分解(ユビキチン-プロテアソーム系)を亢進、(3)脂肪分解を亢進する。結果、食べられず痩せていくんじゃ。

サクラ サクラ

ただ栄養を入れれば治らないんですか?

博士 博士

そこが重要な点じゃ。栄養療法だけでは改善困難で、代謝異常自体を是正する必要がある。だから『集学的アプローチ』といって、栄養+運動+薬物+症状緩和を組み合わせる。

サクラ サクラ

薬物療法はありますか?

博士 博士

本邦では2021年にグレリン受容体作動薬アナモレリンが承認され、非小細胞肺癌・胃癌・膵癌・大腸癌の悪液質に使える。短期では副腎皮質ステロイドも食欲増進に使われるぞ。

サクラ サクラ

選択肢1の末梢神経障害、2のリンパ浮腫、3のがん疼痛はそれぞれ別概念ですか?

博士 博士

そう。末梢神経障害は化学療法副作用や神経浸潤、リンパ浮腫はリンパ節郭清後や腫瘍圧排、がん疼痛はWHO3段階除痛の対象。いずれも悪液質とは独立した症状概念じゃ。

サクラ サクラ

悪液質のステージ分類はありますか?

博士 博士

前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3段階。不応性悪液質は抗がん治療に抵抗性で予後3か月未満が目安じゃ。早期介入ほど効果が出やすいぞ。

サクラ サクラ

看護のポイントは?

博士 博士

食事の盛付けや匂い・温度の工夫、少量頻回食、口腔ケア、便通管理、家族への食支援指導。さらに進行に応じてACP(アドバンス・ケア・プランニング)を進め、無理な栄養強制を避けつつ生活の質を支える姿勢が大切じゃ。

サクラ サクラ

単純な『食欲低下』ではなく、代謝の病気として捉えるんですね。

POINT

がん悪液質は進行がん患者の約80%に認められる多因子性の代謝異常症候群で、『通常の栄養サポートでは完全に回復できない進行性の骨格筋量減少を特徴とする』(EPCRC 2011)と定義されます。中核徴候は進行性の体重減少、食欲不振、サルコペニアで、腫瘍由来因子と炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6)による筋蛋白分解亢進・脂肪分解亢進・食欲中枢抑制が病態の中心です。末梢神経障害(化学療法副作用)、リンパ浮腫(リンパ節郭清後)、がん疼痛(体性・内臓・神経障害性疼痛)はいずれも独立した症状概念で悪液質の徴候ではありません。治療は栄養・運動・薬物(アナモレリン、副腎皮質ステロイド)を組み合わせる集学的アプローチで、看護師は食事環境調整、症状緩和、家族支援、ACPの促進を通して患者のQOLを支える役割を担います。

解答・解説

正解は 4 5 です

問題文:終末期がん患者にみられる悪液質の徴候はどれか。2 つ選べ。

解説:正解は 4 と 5 です。がん悪液質(cancer cachexia)は『通常の栄養サポートでは完全に回復できない、進行性の機能障害に至る骨格筋量の持続的減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群』と定義される(EPCRC 2011)。中核症状は進行性の体重減少と食欲不振、骨格筋減少(サルコペニア)であり、がん患者の約80%が経験し、予後不良因子となる。

選択肢考察

  1. × 1.  末梢神経障害

    がん化学療法(特にタキサン系、白金製剤、ビンカアルカロイド)による副作用や、腫瘍の神経浸潤で生じる症状であり、悪液質の定義には含まれない。

  2. × 2.  リンパ浮腫

    腋窩・鼠径リンパ節郭清や放射線治療後、あるいは腫瘍のリンパ管閉塞で発生する。悪液質の徴候ではなく、四肢の浮腫を特徴とする別の病態。

  3. × 3.  がん疼痛

    がんによる体性痛・内臓痛・神経障害性疼痛であり、WHO方式の3段階除痛で管理する。悪液質とは独立した症状概念。

  4. 4.  食欲不振

    悪液質の中核症状の一つ。炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1、IL-6)や腫瘍由来因子による視床下部食欲中枢の抑制で生じ、経口摂取量が減少する。

  5. 5.  体重減少

    悪液質診断基準の中核。6か月で5%超の体重減少、またはBMI<20で2%超の体重減少、またはサルコペニアを伴う2%超の体重減少が基準。骨格筋・脂肪の両方が減少する。

がん悪液質はEPCRC基準で『前悪液質(食欲不振+5%以下の体重減少)』『悪液質(上記診断基準を満たす)』『不応性悪液質(抗がん治療抵抗性、予後3か月未満)』の3段階に分類される。病態は腫瘍由来因子(PIFなど)と全身炎症(CRP上昇、サイトカイン)による筋蛋白分解亢進・脂肪分解亢進・食欲中枢抑制の複合。治療は多職種で栄養・運動・薬物を組み合わせる集学的アプローチ。薬物では副腎皮質ステロイド(短期)、グレリン受容体作動薬アナモレリン(本邦で非小細胞肺癌・胃癌・膵癌・大腸癌悪液質に適応)がある。看護では食事環境調整、症状管理、家族への食支援指導、予後を踏まえたACPが重要。

がん悪液質の中核症状(体重減少・食欲不振・骨格筋減少)を、他のがん関連症状(疼痛・浮腫・神経障害)と区別する問題。多因子性の代謝異常であることの理解が鍵。