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網膜剝離術後の体位はなぜ「うつ伏せ」?ガスの浮力が教えてくれる術後ケアの原理

看護師国家試験 第109回 午後 第51問 / 成人看護学 / 感覚器・運動器系

国試問題にチャレンジ

109回 午後 第51問

Aさん( 59 歳、女性)は裂孔原性網膜剝離( rhegmatogenous retinal detachment )と診断され、硝子体手術の際に硝子体腔中にガス注入を受けた。 手術直後、病室での体位で適切なのはどれか。

  1. 1.坐位
  2. 2.腹臥位
  3. 3.仰臥位
  4. 4.側臥位

対話形式の解説

博士 博士

今日は硝子体手術後の体位制限について学ぶぞ。59歳女性が裂孔原性網膜剝離で硝子体腔にガスを入れる手術を受けた。術後どんな体位にすればよいと思うかね?

サクラ サクラ

うーん、手術後だから楽な仰向けかなと思ったんですけど…違うんですか?

博士 博士

実は腹臥位、つまりうつ伏せが正解なのじゃ。理由を一緒に考えよう。まず裂孔原性網膜剝離は、網膜に穴が開いてそこから硝子体の液が入り込み、網膜が内側にペロンと剝がれてしまう病気じゃ。

サクラ サクラ

その穴を塞ぐために、眼の中にガスを入れるんですね。

博士 博士

その通り。SF6やC3F8といった膨張性ガスを硝子体腔に注入する。このガスは水よりうんと軽くて、眼球の中では必ず上の方に浮かぶ性質があるのじゃ。

サクラ サクラ

あっ、だから顔を下向きにしておけば、ガスが網膜の後ろ側にぴったり押し付けられるんですね!

博士 博士

よく気づいたな。裂孔の多くは眼底の後極部や下方にあるから、うつ伏せにしてその部位を最も上方に配置するとタンポナーデ効果が最大になる。

サクラ サクラ

仰向けだと水晶体側にガスが当たってしまって、網膜の裂孔は押さえられないってことですね。

博士 博士

その通り。さらに長時間水晶体裏にガスが触れると白内障を早めるリスクもある。坐位も重力方向が合わず後極を押さえられない。

サクラ サクラ

体位制限ってどれくらい続くんですか?

博士 博士

ガスの種類や裂孔の位置にもよるが、数日から1〜2週間ほど厳密な腹臥位保持が必要じゃ。頸や腰への負担が大きいから、穴あき枕や腹臥位用マットで支援する。

サクラ サクラ

看護師はうつ伏せをサポートする工夫も大事なんですね。褥瘡予防も気になります。

博士 博士

その通り。前額・頬・肘・膝などの圧迫部位に注意し、定期的な除圧、皮膚観察、食事や排泄の工夫も欠かせん。さらに重要なのは、眼内ガスが残っている間は飛行機に乗ってはいけないという点じゃ。

サクラ サクラ

どうしてですか?

博士 博士

上空では気圧が下がりガスが膨張して眼圧が急上昇し、失明する恐れがあるからじゃ。高地への移動も同様に注意が必要で、退院指導で必ず伝える項目じゃよ。

サクラ サクラ

物理の原理が看護ケアに直結しているんですね。腑に落ちました。

POINT

裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術では、剝離した網膜を内側から押さえて復位させるためにSF6やC3F8といった膨張性ガスを硝子体腔に注入します。これらのガスは水より軽く、眼内では常に上方に浮くため、裂孔を最上方に置く体位すなわち腹臥位を保持することでタンポナーデ効果が最大化され、網膜の癒着が得られます。体位保持は数日から1〜2週間続き、褥瘡予防や頸肩部への配慮、安楽の工夫が看護のポイントとなります。さらに眼内ガスが残存している期間は気圧変化でガスが膨張するため航空機搭乗や高地移動が禁忌であり、退院指導において必ず説明すべき重要事項です。眼科術後看護では、ガスの物理的性質を理解して体位の意味を患者に伝えられることが、アドヒアランスと治療成績を左右します。

解答・解説

正解は 2 です

問題文:Aさん( 59 歳、女性)は裂孔原性網膜剝離( rhegmatogenous retinal detachment )と診断され、硝子体手術の際に硝子体腔中にガス注入を受けた。 手術直後、病室での体位で適切なのはどれか。

解説:正解は2の腹臥位である。裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術では、剝離した網膜を内側から押し付けて復位させる目的で、硝子体腔にSF6やC3F8などの膨張性ガスを注入する。注入されたガスは水分より比重が軽いため必ず眼内で上方に浮き上がる性質があり、この浮力を裂孔部位にピンポイントで作用させるには、裂孔が眼球の最上方に位置するような体位を保持する必要がある。多くの裂孔は眼底後極部から周辺にかけて生じるため、顔を下向きにする腹臥位(うつ伏せ)にすると、裂孔部にガスが接してタンポナーデ効果が得られ、網膜の復位と癒着が促される。術後数日から1週間以上この体位制限が続くことがあり、看護師は腹臥位の継続支援と褥瘡・頸部負担への配慮が求められる。

選択肢考察

  1. × 1.  坐位

    坐位では眼球内で上方に浮いたガスが水平半規管に近い位置に留まり、眼底後極や下方周辺の裂孔を十分に圧迫できない。また頭位を立てたままでは網膜復位の力がかからず、剝離が進行する恐れがある。

  2. 2.  腹臥位

    顔を下に向けることで眼内の上方に浮いたガスが眼底後極側に集まり、網膜裂孔をガスで内側から圧迫するタンポナーデ効果が最大に発揮される。術後の第一選択体位となる。

  3. × 3.  仰臥位

    仰向けではガスが水晶体後面側に移動してしまい、後極部の裂孔には圧がかからない。むしろ水晶体裏面にガスが長時間接触し白内障進行の一因になる可能性もあり、術直後には推奨されない。

  4. × 4.  側臥位

    裂孔が側方にある場合に限り許容されることもあるが、眼底後極部や下方裂孔に対しては十分なタンポナーデが得られないため、術直後の一般的な適切体位とはいえない。

硝子体手術で用いられるタンポナーデ物質にはSF6(約2週間で吸収)、C3F8(約6〜8週間残存)、シリコーンオイルなどがある。いずれも比重が水より軽いため裂孔部位を上にする体位管理が基本である。術後は頭痛、悪心、気圧変動(航空機搭乗や高所移動)による眼内ガス膨張のリスクもあり、ガスが残っている間の飛行機搭乗は禁忌である。体位保持のための枕や穴あきマット、定期的な体位変換、褥瘡・頸肩部痛への配慮が重要なケアとなる。

硝子体腔内ガスは比重が軽く上方に浮くという物理的性質から、裂孔を上にして圧迫する体位を導くのがポイント。後極裂孔の多い裂孔原性網膜剝離では腹臥位が選択される。