認知症の外出支援 役割を奪わず安全を守る工夫
看護師国家試験 第106回 午前 第118問 / 地域・在宅看護論 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん(89歳、女性)は、認知症( dementia )と診断されており、認知症高齢者の日常生活自立度判定基準はランクⅡbである。定年退職後の長男(66歳、未婚)との2人暮らし。 Aさんは「役所の世話になるのは嫌だ」と言い、要介護認定を受けることを承諾していなかった。しかし、Aさんが室内で転倒したことをきっかけに、要支援1の判定を受け介護予防訪問看護が導入された。 Aさんは「家事は私の仕事だ。息子にも他人にも任せられない」と言い、夕方になると、歩いて5分程度のスーパーマーケットへ買い物に行くことが長年の習慣となっている。最近、夜になっても帰宅せず、長男が探しに行くとスーパーマーケットから離れた公園のベンチに座っていることが数回あった。長男は訪問看護師に「母は私が後をついてきたと思い込んで怒るんです。このままでは心配です」と相談した。 看護師が長男へ助言する内容で最も適切なのはどれか。
- 1.「先に公園で待っていてはどうですか」
- 2.「ホームヘルパーの利用をお勧めします」
- 3.「Aさんに買い物はやめるよう話しませんか」
- 4.「荷物を持つという理由で同行してはどうですか」
対話形式の解説
博士
認知症のAさん、長年夕方の買い物を続けておるが、最近は道に迷って公園で発見されることが数回あったのじゃ。
アユム
認知症なら買い物はやめさせた方が安全じゃないですか?
博士
そこが介護の落とし穴じゃ。危険だからと活動を全部奪うと、生きがいを失い、BPSDが悪化することが多いのじゃ。
アユム
BPSDって?
博士
Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略、行動・心理症状のことじゃ。徘徊、暴言、抑うつ、被害妄想などが含まれる。中核症状よりも環境や関わり方の影響が大きい。
アユム
なるほど、活動の制限がBPSDを悪化させるんですね。
博士
そうじゃ。だから「買い物はやめよう」と提案するのは不適切。長年の習慣は役割であり、社会参加であり、自尊心の源なのじゃ。
アユム
でも、道に迷うのは心配ですよね。
博士
そこで工夫が必要じゃ。ただし見守りをAさんに気づかれると「後をつけてきた」と怒ってしまう。プライドを傷つけないように配慮が要るのじゃ。
アユム
どうすればいいんですか?
博士
「荷物を持つ」という自然な理由で同行するのじゃ。これなら監視されているとは感じず、むしろ「助けてもらっている」と感じる。
アユム
賢い工夫ですね。Aさんの自尊心を守りつつ安全も確保できる。
博士
これが「パーソンセンタードケア」の考え方じゃ。認知症ケアの基本理念で、トム・キットウッドが提唱した。
アユム
その人の歴史や人格を大切にするってことですよね。
博士
その通り。病気として対処するのではなく「その人」として関わる。
アユム
「ホームヘルパーを勧める」のはダメなんですか?
博士
日常生活自立度ランクⅡbで要支援1の段階では、ヘルパー導入は優先度が低い。しかもAさんは「他人に任せたくない」と明言しておる。本人の意思も大切じゃ。
アユム
「先に公園で待つ」のは?
博士
公園に立ち寄るのはたまたま数回、毎回ではない。先回りしても会えるとは限らず、買い物ルートのほかの地点での道迷いには対応できん。
アユム
認知症の日常生活自立度、もう一度整理したいです。
博士
Ⅰは自立、Ⅱaは家庭外で支障、Ⅱbは家庭内外で支障だが注意すれば自立、Ⅲaは日中中心に介護必要、Ⅲbは夜間も介護必要、Ⅳは常に介護必要、Mは専門医療必要、じゃ。
アユム
Aさんは「注意すれば自立できる」レベルなんですね。だから外出を続けられる設計を考えるのが筋道なんですね。
POINT
認知症高齢者の支援では、長年の習慣や役割を奪わずに安全を確保することが基本理念です。Aさんの夕方の買い物は生きがいであり社会参加でもあるため、外出を制限するのではなく「荷物を持つ」という自然な理由で同行するのが最適解となります。この提案はAさんの自尊心を守りながら帰宅困難を予防でき、パーソンセンタードケアの実践例といえます。ヘルパー導入や買い物の中止提案は本人の意思と自立度に合わず、公園で待つ方法も確実性に欠けます。認知症看護では中核症状の治療よりも、環境調整と関わり方の工夫によるBPSD予防が現場の鍵となります。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:Aさん(89歳、女性)は、認知症( dementia )と診断されており、認知症高齢者の日常生活自立度判定基準はランクⅡbである。定年退職後の長男(66歳、未婚)との2人暮らし。 Aさんは「役所の世話になるのは嫌だ」と言い、要介護認定を受けることを承諾していなかった。しかし、Aさんが室内で転倒したことをきっかけに、要支援1の判定を受け介護予防訪問看護が導入された。 Aさんは「家事は私の仕事だ。息子にも他人にも任せられない」と言い、夕方になると、歩いて5分程度のスーパーマーケットへ買い物に行くことが長年の習慣となっている。最近、夜になっても帰宅せず、長男が探しに行くとスーパーマーケットから離れた公園のベンチに座っていることが数回あった。長男は訪問看護師に「母は私が後をついてきたと思い込んで怒るんです。このままでは心配です」と相談した。 看護師が長男へ助言する内容で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。認知症の高齢者が長年の習慣である買い物を続けることは、生活機能の維持・社会参加・自尊心の保持につながる重要な活動で、外出制限は原則避けるべき。一方で帰宅困難(道迷い)が起きているため、安全確保は必要。Aさんは長男が「後をつけてきた」と思うと怒るため、見守りと分からないように同行するのは難しい。そこで「荷物を持つ」という自然な理由で同行すれば、Aさんの自尊心を損なわず、かつ帰宅までの安全を確保できる。これは「その人らしさを尊重したパーソンセンタードケア」の具体例である。
選択肢考察
-
× 1. 「先に公園で待っていてはどうですか」
Aさんが公園に立ち寄るのは毎回ではなく数回のみで、習慣化していない。先回りして待っても会えるとは限らず、また買い物ルートから帰宅までの他の場面での道迷いには対応できない。
-
× 2. 「ホームヘルパーの利用をお勧めします」
認知症高齢者の日常生活自立度ランクⅡbは「家庭外で日常生活に支障をきたす行動や意思疎通の困難さが時々見られ、誰かが注意していれば自立できる」レベル。要支援1でもあり、また「他人に任せられない」という本人の意思もあるため、ホームヘルパー導入は優先度が低い。
-
× 3. 「Aさんに買い物はやめるよう話しませんか」
長年の習慣であり本人の役割・生きがいとなっている買い物を中止させることは、生活意欲・認知機能の低下、行動・心理症状(BPSD)の増悪を招く危険がある。活動を制限するのではなく安全に続けられる方法を探るのが適切。
-
○ 4. 「荷物を持つという理由で同行してはどうですか」
「荷物を持つ」という自然で納得しやすい理由での同行は、Aさんの自尊心と意思を尊重しながら安全を確保できる現実的な提案。外出の継続という本人のニーズと、帰宅困難の予防という家族の不安の両方に応える最適解。
認知症高齢者の日常生活自立度判定基準はⅠ〜M(医療機関等での対応必要)までのランクで、Ⅱa(家庭外で支障)、Ⅱb(家庭内外で支障、注意すれば自立)、Ⅲa(日中中心に介護必要)、Ⅲb(夜間も介護必要)、Ⅳ(常に介護必要)と段階が上がる。認知症ケアの基本は「パーソンセンタードケア」(トム・キットウッド)で、本人の歴史・人格・関係性を尊重する。行動・心理症状(BPSD)は環境や関わり方で軽減可能で、活動制限よりも安全に続けられる工夫を優先する。
認知症高齢者の長年の習慣(役割・生きがい)を尊重しつつ、安全を確保する現実的支援を選ぶ問題。
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