腹膜透析導入時の心理支援と自己効力感
看護師国家試験 第107回 午前 第50問 / 老年看護学 / 健康状態・受療状況に応じた看護
国試問題にチャレンジ
Aさん( 70歳、女性 )。夫( 72歳 )と2人暮らし。慢性腎不全( chronic renal failure )のため腹膜透析を行うことになった。認知機能や身体機能の障害はない。腹膜透析について説明を受けた後、Aさんは「私のように高齢でも自分で腹膜透析をできるのか心配です。毎日続けられるでしょうか」と話した。 Aさんへの対応で最も適切なのはどれか。
- 1.「誰でも簡単にできます」
- 2.「ご家族に操作をしてもらいましょう」
- 3.「訪問看護師に毎日見守ってもらいましょう」
- 4.「同年代で腹膜透析をしている人の体験を聞いてみましょう」
対話形式の解説
博士
腹膜透析を始めるAさんの不安への対応じゃ。お主、Aさんの強みと弱みをアセスメントしてみよ。
アユム
強みは認知機能と身体機能に障害がないこと、夫との2人暮らしで家族サポートもあること。弱みは高齢で初めての手技に対する不安があることですね。
博士
見事じゃ。Aさんの不安は「高齢だから」という自己認識に基づくものじゃ。能力があるのに自信が持てない状態じゃな。
アユム
こういうとき何を高めればよいですか?
博士
自己効力感、セルフ・エフィカシーじゃ。バンデューラの4情報源を覚えておるか?
アユム
はい、達成体験、代理体験、言語的説得、生理的情動的喚起の4つです。
博士
その通り。この4つの中で、未体験の手技への不安に最も有効なのが「代理体験」じゃ。
アユム
自分と似た人の成功を見聞きすることですね。
博士
そうじゃ。同年代で腹膜透析をしている人の体験を聞けば「私と同じ年代でもできているのだから、私にもできるかも」と思える。具体的な工夫や苦労の話も参考になる。
アユム
選択肢1の「誰でも簡単」は励ましになっていないんですね。
博士
むしろ逆効果じゃ。「簡単と言われたのにうまくいかない」と感じれば、一層自信を失う。患者の不安に真正面から向き合っておらん。
アユム
選択肢2の家族に任せるは?
博士
Aさんは認知も身体も問題なく、自分でできる能力があるのじゃ。家族に任せるのは自律性を奪うことになる。72歳の夫にも負担が大きい、老老介護の問題じゃ。
アユム
選択肢3の訪問看護師の毎日見守りは過剰ですね。
博士
導入期から手取り足取りでは自立を妨げる。まず手技習得状況をアセスメントし、必要最小限の支援から段階的に調整するのが原則じゃ。
アユム
腹膜透析ってどんな治療なんですか?
博士
自分の腹膜を透析膜として利用する治療じゃ。腹腔内に透析液を入れ、数時間後に排出する。これを1日3〜5回繰り返すCAPDと、夜間自動装置で行うAPDがある。
アユム
血液透析と比べるとどうですか?
博士
通院頻度が少ない(月1〜2回)、生活の自由度が高い、残腎機能が温存されやすい、血行動態が安定しやすい、という利点がある。反面、腹膜炎、出口部感染、被嚢性腹膜硬化症(EPS)、腹膜機能低下による離脱リスクがある。
アユム
Aさんは在宅での自己管理を頑張る必要があるんですね。
博士
じゃから自信を持ってもらうことが最初のハードルじゃ。看護師は同年代患者との交流の場や患者会、PD教室を紹介し、達成体験を積み重ねてもらう環境を整える。
アユム
「Assisted PD」という考え方もあるんですよね。
博士
高齢者のPD普及のため、訪問看護師や家族が補助する形のPDじゃ。欧州では標準的な選択肢、日本でも広まりつつある。ただしこれは本人の能力をアセスメントした上で選択するもの、初めから全部任せるのとは違うぞ。
アユム
段階的に、患者の力を引き出しながら支援するんですね。
博士
それがエンパワメント看護の本質じゃ。
アユム
Aさんには「一緒に頑張りましょう、まずは同じ経験を持つ方のお話を聞いてみませんか」という関わりをしたいです。
博士
見事な回答じゃ。患者の不安に共感し、具体的な次の一歩を一緒に考える、これぞ看護の醍醐味じゃな。
POINT
高齢で腹膜透析導入に不安を感じるAさんへの対応として、同年代患者の体験を聞く機会を提供することが最も適切です。バンデューラの自己効力理論における代理体験により「自分にもできる」という感覚が育ち、不安軽減と治療継続への動機づけにつながります。認知・身体機能に障害のないAさんの自律性を尊重し、家族依存や過剰な訪問看護は避け、患者会やピアサポートを活用した段階的支援を行うことがエンパワメント看護の基本です。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:Aさん( 70歳、女性 )。夫( 72歳 )と2人暮らし。慢性腎不全( chronic renal failure )のため腹膜透析を行うことになった。認知機能や身体機能の障害はない。腹膜透析について説明を受けた後、Aさんは「私のように高齢でも自分で腹膜透析をできるのか心配です。毎日続けられるでしょうか」と話した。 Aさんへの対応で最も適切なのはどれか。
解説:正解は4の「同年代で腹膜透析をしている人の体験を聞いてみましょう」です。Aさんは認知機能・身体機能に障害がなく、自己管理能力は十分備わっていますが、高齢であることへの不安から自信を持てない状態です。この不安軽減と自己効力感向上に最も有効なのが、バンデューラの自己効力理論における「代理体験(vicarious experience)」です。自分と似た立場の他者(同年代の腹膜透析患者)が実際に成功している姿を知ることで「自分にもできそう」という感覚が育ちます。また患者会やピアサポートは、具体的な工夫や苦労の共有により、技術面・心理面の両方で学びと支えが得られる貴重な資源です。看護師は単に励ますのではなく、Aさんが自ら一歩を踏み出せるような情報と機会を提供する役割を担います。
選択肢考察
-
× 1. 「誰でも簡単にできます」
安易な励ましは患者の不安に向き合っていません。また「簡単」と言われて実際に困難を感じたとき、「自分は誰でもできることもできない」と自己評価が下がり、自己効力感を損ねる逆効果となります。
-
× 2. 「ご家族に操作をしてもらいましょう」
Aさんは認知・身体機能に障害がなく、自分で実施する能力は十分あります。家族に依存させる方針はAさんの自律性とQOLを損ないます。72歳の夫にも負担が大きく、老老介護の問題も生じます。
-
× 3. 「訪問看護師に毎日見守ってもらいましょう」
導入期から毎日の見守りは過剰な支援で、Aさんの自立を妨げます。まずは手技習得状況をアセスメントし、必要に応じて段階的に訪問看護を導入するのが適切です。
-
○ 4. 「同年代で腹膜透析をしている人の体験を聞いてみましょう」
代理体験により自己効力感を高める最も効果的な方法です。同年代の成功例を見聞きすることで「自分にもできる」という希望と具体的なイメージが得られ、不安軽減につながります。
腹膜透析(PD)は自宅で1日3〜5回のバッグ交換を行うCAPD(持続携行式)と夜間自動装置で行うAPD(自動腹膜透析)があります。血液透析と比べ通院頻度が少なく、生活の自由度が高く、残腎機能が温存されやすい反面、被嚢性腹膜硬化症(EPS)や腹膜炎、出口部感染症のリスクがあります。高齢者のPD選択は「Assisted PD(家族・訪問看護支援付き)」が国際的にも推奨されつつあり、日本でも普及が進んでいます。自己効力感を高める4要素:達成体験・代理体験・言語的説得・生理的情動的喚起(バンデューラ)。
患者の不安に寄り添い、自己効力感を高める支援として代理体験の活用が最適であることを問う問題です。
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