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インシデントは個人の責任?それともシステムの問題?

看護師国家試験 第106回 午後 第112問 / 看護の統合と実践 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

106回 午後 第112問

Aさん(78歳、男性)は、尿路感染症( urinary tract infection )による敗血症( sepsis )で入院し、5日が経過した。中心静脈ラインから輸液ポンプを使用して乳酸加リンゲル液が投与され、その側管からシリンジポンプを使用してノルアドレナリンが投与されている。 Aさんには有害事象はみられなかったが、医師の指示量の2倍のノルアドレナリンが3時間投与されていた。これは、医師がノルアドレナリンの減量を指示書に記載し、夜勤の担当看護師にそれを伝えたが、担当看護師が実際に減量することを忘れたことが原因だった。病棟では、リスクマネジメントとしてこの出来事の再発防止策を考えることとなった。 再発防止策で適切なのはどれか。

  1. 1.薬剤に関する研修会を企画する。
  2. 2.医療機器の操作方法を再教育する。
  3. 3.インシデントを起こした看護師は反省文を書くこととする。
  4. 4.医師の指示内容の変更時は、複数の看護師で情報共有をする。

対話形式の解説

博士 博士

今回は医療安全の核心を問う問題じゃ。ノルアドレナリンが2倍量で3時間投与されとったインシデント、幸いAさんに有害事象はなかったが、再発防止策を考えねばならん。

アユム アユム

原因は夜勤看護師が減量の指示を忘れたこと…ですよね?

博士 博士

その通り。ではどう防ぐかが問題じゃ。選択肢1の『薬剤研修会』はどう思う?

アユム アユム

薬の知識を増やせば間違いが減る気がします。

博士 博士

しかし今回の原因は薬剤知識ではなく『指示を実行し忘れた』ことじゃ。知識を足しても忘却は防げん。

アユム アユム

なるほど…では選択肢2の『機器操作の再教育』は?

博士 博士

これも操作ミスが原因ではないから的外れじゃな。シリンジポンプは操作できとるが、流量を変えなかっただけじゃ。

アユム アユム

選択肢3の『反省文を書かせる』は厳しく感じますが、再発防止になりそうですが?

博士 博士

これは医療安全で最もやってはいけん対応じゃ。インシデントレポートは『個人を罰するため』ではなく、『組織全体で学ぶため』にある。罰する文化になると、報告が減り、隠蔽され、かえって事故が増えるのじゃ。

アユム アユム

そっか、報告文化の阻害につながるんですね。

博士 博士

その通り。医療安全の基本は『no blame culture(非難しない文化)』じゃ。人はどんなに優秀でもミスをする前提で、システムで防ぐ。

アユム アユム

有名な考え方ありましたよね、スイスチーズモデルとか。

博士 博士

よく知っとるな。スイスチーズの穴が偶然重なると事故が起こるという比喩で、複数の防御層を重ねてエラーを吸収するという考え方じゃ。

アユム アユム

ということは選択肢4の『複数の看護師で情報共有』が正解ですか?

博士 博士

その通り。この事例の根本原因は『指示変更が1人にしか伝わっていなかった』こと。ダブルチェック、復唱、申し送りの強化、電子カルテのアラート通知など、チームで担保する仕組みが再発防止になる。

アユム アユム

具体的には、申し送り時に指示変更を必ず口頭と記録で二重確認する、とかですか?

博士 博士

うむ。他にもリーダー看護師が勤務開始時に指示変更分を必ず確認する、輸液ポンプのラベルに指示量を書いて実施時に声出し確認する、などの工夫があるな。

アユム アユム

4M4Eってのも聞いたことがありますが…

博士 博士

Man(人)・Machine(機器)・Media(環境)・Management(管理)の4Mと、Education・Engineering・Enforcement・Exampleの4Eでエラーを分析する手法じゃ。今回はManagement(指示伝達の仕組み)を改善する局面じゃな。

アユム アユム

インシデントを『個人のミス』で終わらせずに『組織の仕組み』として見直すのが医療安全の基本なんですね。

POINT

医療安全の基本理念は『人は必ずミスをする』という前提に立ち、個人を責めずシステムで事故を防ぐことにあります。本事例のように指示変更の伝達が1人に限られた場合、複数看護師での情報共有・ダブルチェック・電子カルテのアラートなど多層的な仕組みが有効です。インシデントレポートは懲罰の道具ではなく、組織学習のためのツールであることも重要な原則です。スイスチーズモデルや4M4Eなどの分析手法を用い、教育・システム・環境の多面的な改善を積み重ねることが医療事故防止につながります。

解答・解説

正解は 4 です

問題文:Aさん(78歳、男性)は、尿路感染症( urinary tract infection )による敗血症( sepsis )で入院し、5日が経過した。中心静脈ラインから輸液ポンプを使用して乳酸加リンゲル液が投与され、その側管からシリンジポンプを使用してノルアドレナリンが投与されている。 Aさんには有害事象はみられなかったが、医師の指示量の2倍のノルアドレナリンが3時間投与されていた。これは、医師がノルアドレナリンの減量を指示書に記載し、夜勤の担当看護師にそれを伝えたが、担当看護師が実際に減量することを忘れたことが原因だった。病棟では、リスクマネジメントとしてこの出来事の再発防止策を考えることとなった。 再発防止策で適切なのはどれか。

解説:正解は4です。今回のインシデントは「薬剤知識不足」でも「機器操作の誤り」でもなく、医師からの指示変更が夜勤担当看護師1人にしか共有されず、実施を忘れたまま勤務交代まで発見されなかったことが根本原因です。したがって再発防止策としては、指示変更情報を複数の看護師で共有し、実施確認をチームで担保する仕組みが有効となります。インシデントは『個人の責任追及』ではなく『システムの改善』によって防ぐというリスクマネジメントの基本原則に沿った選択肢が正解です。

選択肢考察

  1. × 1.  薬剤に関する研修会を企画する。

    薬剤の知識不足ではなく指示伝達の仕組みに問題があった事例のため、薬剤研修は直接的な再発防止策にはならない。

  2. × 2.  医療機器の操作方法を再教育する。

    シリンジポンプの操作ミスではなく、指示を実行すること自体を忘れた事例なので、機器教育は的外れ。

  3. × 3.  インシデントを起こした看護師は反省文を書くこととする。

    インシデントレポートは個人を罰するための書類ではなく、事象分析と再発防止のための情報共有ツール。反省文による懲罰的対応は報告文化を阻害し、根本解決にもつながらない。

  4. 4.  医師の指示内容の変更時は、複数の看護師で情報共有をする。

    本事例の根本原因である『指示の伝達が1人に限定され実施確認がされなかった』点に直接対応する仕組み。ダブルチェック・申し送り強化・電子カルテ上の変更指示確認システムなど、チームで担保する体制が再発防止につながる。

医療安全の考え方の基本は『ヒューマンエラーは必ず起こる』という前提で、個人を責めるのではなくシステムで防ぐ(no blame culture)ことにある。スイスチーズモデルや4M4Eなどの分析手法では、情報伝達・手順・教育・環境の4Mを見直し、エラー撲滅ではなくエラー検出・エラー吸収の仕組みを作る。指示変更時の『声出し確認』『復唱』『電子カルテのアラート』『交代時の確認』が鍵となる。

インシデントの再発防止策として、根本原因に即した対応を選ぶ問題。個人の責任追及ではなくシステム改善が基本という医療安全の考え方を問う。