「見捨てられ不安」の正体?境界性パーソナリティ障害を理解する
看護師国家試験 第109回 午後 第68問 / 精神看護学 / 精神疾患・障害の特徴と看護
国試問題にチャレンジ
成人期早期に、見捨てられることに対する激しい不安、物質乱用や過食などの衝動性、反復する自傷行為、慢性的な空虚感、不適切で激しい怒りがみられ、社会的、職業的に不適応を生じるのはどれか。
- 1.回避性人格〈パーソナリティ〉障害( avoidant personality disorder )
- 2.境界性人格〈パーソナリティ〉障害( borderline personality disorder )
- 3.妄想性人格〈パーソナリティ〉障害( paranoid personality disorder )
- 4.反社会性人格〈パーソナリティ〉障害( antisocial personality disorder )
対話形式の解説
博士
今回はパーソナリティ障害、特に境界性パーソナリティ障害(BPD)について学ぶぞ。精神科看護で必ず出会う疾患じゃ。
アユム
パーソナリティ障害って、性格が悪いということですか?
博士
いや、そうではない。パーソナリティの偏りが著しく、本人が苦痛を感じたり周囲との関係が破綻したりして、社会生活に支障が出ている状態じゃ。単なる「性格」とは次元が違う。
アユム
種類がたくさんあるんですよね?
博士
DSM-5では10種類を3つのクラスターに分けておる。Aは奇妙で風変わり、Bは演技的・感情的・移り気、Cは不安・恐怖感じゃ。
アユム
境界性はクラスターBですか?
博士
そう、反社会性・自己愛性・演技性と同じクラスターBじゃ。中核症状は①見捨てられ不安、②対人関係の不安定さ、③自己像の不安定、④衝動性、⑤反復する自傷・自殺企図、⑥感情の不安定、⑦慢性的空虚感、⑧激しい怒り、⑨一過性の妄想・解離症状。
アユム
問題文とぴったり合いますね。
博士
そう、典型的な記述じゃ。特に「見捨てられ不安」がキーワードで、相手から拒絶されたと感じると激しく動揺し、自傷や過剰な引き止め行動に出るのじゃ。
アユム
回避性との違いは?
博士
回避性は「批判される・拒絶されるのが怖くて近づかない」タイプ、境界性は「見捨てられるのが怖くてしがみつく」タイプで、対人パターンが正反対じゃ。
アユム
妄想性や反社会性は?
博士
妄想性は他者への不信が核、反社会性は他者の権利を無視し罪悪感が欠如しておる。境界性の衝動性や自傷とは中核症状が異なる。
アユム
治療はどうするんですか?
博士
弁証法的行動療法(DBT)、メンタライゼーション療法、スキーマ療法など心理療法が中心じゃ。薬物は補助的に使う。
アユム
看護ではどう関わるんですか?
博士
ポイントが複数ある。①限界設定(リミットセッティング):できること・できないことを明確に伝える、②理想化と脱価値化に引き込まれない:チーム内で一貫した対応、③自傷リスクの評価、④患者の苦痛への共感を保ちながらも巻き込まれない距離感、じゃ。
アユム
スタッフ間で患者への評価が分かれることがあるって聞きますね。
博士
それが「スプリッティング」(分裂)じゃ。ある看護師を理想化し、別の看護師を徹底的に悪者扱いする。スタッフ間でカンファレンスを持ち、情報と対応を一致させるのが肝心じゃ。
アユム
BPDの方への関わりは難しそうですが、枠組みがあれば少し安心できますね。
博士
その通り。理論と枠組みを持てば、感情的な巻き込まれを防ぎながら共感的に関われるのじゃ。
POINT
境界性パーソナリティ障害(BPD)は、見捨てられ不安、対人関係・自己像・感情の不安定さ、物質乱用や過食などの衝動性、反復する自傷行為、慢性的空虚感、不適切で激しい怒りを中核とするパーソナリティ障害で、成人期早期に顕在化し社会的・職業的不適応を生じます。回避性(拒絶が怖く回避)、妄想性(他者への不信)、反社会性(他者の権利侵害・罪悪感欠如)とは対人パターンや中核症状が異なるため、症状の組み合わせで鑑別します。治療は弁証法的行動療法などの心理療法が中心で、薬物は補助的役割を果たします。看護では限界設定、理想化と脱価値化への一貫した対応、自傷・自殺リスクの継続評価、スタッフ間の情報共有が重要で、患者の苦痛に共感しつつも巻き込まれない治療的距離を保つ姿勢が求められます。BPDの理解は精神看護の中核スキルであり、国試でも症状の組み合わせから診断名を問う問題が頻出です。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:成人期早期に、見捨てられることに対する激しい不安、物質乱用や過食などの衝動性、反復する自傷行為、慢性的な空虚感、不適切で激しい怒りがみられ、社会的、職業的に不適応を生じるのはどれか。
解説:正解は 2 です。境界性パーソナリティ障害(BPD)は、対人関係・自己像・感情・衝動性の不安定さを中核症状とし、見捨てられ不安、理想化と脱価値化の両極端な対人評価、反復する自傷行為や自殺企図、慢性的な空虚感、激しい怒りの制御困難、解離性症状、物質乱用や過食などの衝動性を呈する。成人期早期に顕在化し、社会的・職業的な不適応を生じる。問題文の記述はBPDの診断基準とほぼ一致する。
選択肢考察
-
× 1. 回避性人格〈パーソナリティ〉障害( avoidant personality disorder )
批判や拒絶への強い恐れから社会的状況を回避する障害。自信のなさと対人関係の回避が特徴で、見捨てられ不安の形で現れるBPDとは対人パターンが異なる。
-
○ 2. 境界性人格〈パーソナリティ〉障害( borderline personality disorder )
見捨てられ不安、衝動性(物質乱用・過食)、反復する自傷、慢性的空虚感、激しい怒りが診断基準。問題文は典型的BPDの臨床像。
-
× 3. 妄想性人格〈パーソナリティ〉障害( paranoid personality disorder )
他者への根深い不信・疑念が特徴。利用される・害されると確信する広範な疑り深さを示すが、衝動性や自傷行為が中核症状ではない。
-
× 4. 反社会性人格〈パーソナリティ〉障害( antisocial personality disorder )
他者の権利を無視・侵害し、規範や法を軽視する障害。罪悪感の欠如、攻撃性、無責任さが特徴で、自傷や見捨てられ不安は中核ではない。
パーソナリティ障害はDSM-5で3つのクラスターに分類される。クラスターA(奇妙で風変わり):妄想性・シゾイド・統合失調型、クラスターB(演技的・感情的・移り気):反社会性・境界性・演技性・自己愛性、クラスターC(不安・恐怖感):回避性・依存性・強迫性。境界性パーソナリティ障害は女性に多く、しばしば虐待などの生育歴と関連する。治療は弁証法的行動療法(DBT)、メンタライゼーションに基づく治療(MBT)、スキーマ療法などが有効とされる。看護では分裂(理想化と脱価値化)への対応、限界設定(リミットセッティング)、自傷・自殺リスクの評価、チーム内での情報共有と一貫した関わりが重要である。
問題文に列挙された症状(見捨てられ不安・衝動性・自傷・空虚感・怒り)から境界性パーソナリティ障害を判別する定番問題。症状の組み合わせが診断の鍵。
「精神疾患・障害の特徴と看護」の関連記事
-
知的障害とは何か?発達期に始まる「2つの障害」を整理しよう
知的障害(精神遅滞)の定義そのものを問う基本問題。発症時期(発達期)と、知的機能・適応機能の両方が障害される…
114回
-
抗精神病薬の意外な副作用!ドパミン遮断で起こる体の異変
抗精神病薬の作用機序(ドパミンD2受容体遮断)と副作用(錐体外路症状)を結びつける問題。幻聴・妄想は遮断で改善…
114回
-
対人援助職に多い燃え尽き症候群を理解しよう
対人援助職に特有の心理的消耗症候群であるバーンアウトの概念を正確に識別できるかを問う問題です。
113回
-
ナルコレプシーの4主徴を押さえよう
ナルコレプシーの4主徴(睡眠発作・情動脱力発作・入眠時幻覚・睡眠麻痺)を把握し、他の睡眠障害と鑑別できるかを問…
113回
-
チック、汚言症、そして併存症、トゥレット障害を立体的に理解する
小児期から青年期に発症する代表的な疾患・障害を鑑別させ、特徴的症状(チック・汚言症)からトゥレット障害を選ば…
112回