マラソンで意識混濁!検査値から読み解く熱中症×横紋筋融解症
看護師国家試験 第106回 午後 第113問 / 成人看護学 / 急性期・救急・クリティカルケア
国試問題にチャレンジ
Aさん(23歳、男性)は、マラソンの途中で嘔吐し、意識混濁状態となり救急車で搬送された。来院時、体温39.5℃で、熱中症( heatillness )と診断された。気管挿管と人工呼吸器管理が実施された。膀胱留置カテーテルを挿入後に輸液療法を開始して、ICUに入室した。表面冷却と血管内冷却によって体温は37℃台に下降した。 既往歴:特記すべきことはない。 身体所見:ICU入室時、ジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-20。体温37.8℃、呼吸数28/分、脈拍110/分、血圧94/74mmHg。暗赤色尿を1時間で20mL認めた。 検査所見:Hb16.8g/dL、Ht48.6%、Na130mEq/L、K6.5mEq/L、Cl100mEq/L、クレアチンキナーゼ〈CK〉48,000IU/L、尿素窒素60mg/dL、クレアチニン2.4mg/dL、AST〈GOT〉70IU/L、ALT〈GPT〉88IU/L。尿一般検査でミオグロビン陽性。胸部エックス線写真および頭部CTで異常所見なし。心電図でSTの変化はなく、洞性頻脈を認めた。 このときのAさんの状態のアセスメントで適切なのはどれか。2つ選べ。
- 1.貧血である。
- 2.筋肉が傷害されている。
- 3.致死性不整脈が出現しやすい。
- 4.心原性ショックを起こしている。
- 5.利尿薬の使用が必要な状態である。
対話形式の解説
博士
23歳の男性Aさんがマラソン中に嘔吐・意識混濁で搬送され、体温39.5℃で熱中症と診断された。ICU入室時の検査値から何が起きているか読み解いていくぞ。
サクラ
数値がたくさん…まずどこから見ればいいですか?
博士
異常値に注目じゃ。CKが48,000IU/L、これは基準値の約100〜200倍じゃな。
サクラ
CKって心筋梗塞のマーカーですよね?心臓に何かあったんですか?
博士
良い疑問。CKは心筋だけでなく骨格筋にも多く含まれる酵素じゃ。心電図にST変化がないから心筋梗塞ではなく、骨格筋の破壊を示唆する。つまり横紋筋融解症じゃ。
サクラ
横紋筋融解症!暗赤色尿と尿中ミオグロビン陽性もそれを示してるんですね。
博士
その通り。マラソンのような激しい運動+高体温で、骨格筋細胞が壊死して細胞内成分が血中に漏出する。ミオグロビンが尿細管に詰まり急性腎障害を起こすのが怖い。
サクラ
だからクレアチニンも2.4mg/dLと上がってるんですね。
博士
そう。BUN 60、Cre 2.4で急性腎障害が既に進行中じゃ。これが選択肢2が正解の根拠じゃな。
サクラ
もう1つの正解は?
博士
Kを見よ。6.5mEq/L、基準は3.5〜5.0。高カリウム血症じゃ。
サクラ
筋肉が壊れてカリウムが血中に出てきたから?
博士
その通り。細胞内には大量のKがあるからの。そして高K血症の怖いところは心臓への影響じゃ。
サクラ
心臓の電気活動に関わるんですよね。
博士
うむ。K 6.0を超えるとT波増高、6.5〜7でP波消失・QRS幅広、7.5を超えると心室細動や心静止の致死性不整脈が起こる。だから選択肢3が正解。
サクラ
選択肢1の貧血は?Hb 16.8は高いですね。
博士
そう、貧血どころかむしろ脱水による血液濃縮を示唆する。誤り。
サクラ
選択肢4の心原性ショックは?血圧94/74はちょっと低いような…
博士
ショックの診断基準は収縮期血圧90mmHg未満。94は基準未満ではないし、心電図にST変化もなく既往もない。熱中症と脱水による循環不全の要素はあるが心原性ショックとは言えん。
サクラ
選択肢5の利尿薬は?尿量20mL/時で少ないですが…
博士
ここが重要じゃ。横紋筋融解症の治療はまず大量輸液。尿量を2〜3mL/kg/時まで増やしてミオグロビンを洗い流すのが鉄則。利尿薬は脱水状態では逆効果になる。
サクラ
では治療はどう進めるんですか?
博士
(1)冷却継続、(2)生理食塩水で大量輸液、(3)高K血症にグルコン酸Caで心保護・GI療法でK低下、必要なら重炭酸Na、(4)尿アルカリ化でミオグロビン溶解促進、(5)それでもダメなら持続的血液透析じゃ。
サクラ
実際この症例も次の問題で血液透析になってるんですね。
博士
その通り。熱中症の重症度分類Ⅲ度は中枢神経症状・肝腎障害・凝固異常を伴う集中治療の対象。早期認識と大量輸液がカギじゃ。
サクラ
検査値から一つの病態を立体的に読み解く練習になりますね。
POINT
労作性熱中症では骨格筋の壊死による横紋筋融解症を高頻度に合併します。CK著明高値、ミオグロビン尿、暗赤色尿、高カリウム血症、急性腎障害が典型所見です。高K血症はT波増高から心室細動・心静止といった致死性不整脈を引き起こすため緊急対応が必要です。治療は大量輸液によるミオグロビン洗い流し、尿アルカリ化、高K血症補正、重症では持続的血液透析を行います。検査値から病態を統合的に読み解くアセスメント力が問われる典型問題です。
解答・解説
正解は 2 ・ 3 です
問題文:Aさん(23歳、男性)は、マラソンの途中で嘔吐し、意識混濁状態となり救急車で搬送された。来院時、体温39.5℃で、熱中症( heatillness )と診断された。気管挿管と人工呼吸器管理が実施された。膀胱留置カテーテルを挿入後に輸液療法を開始して、ICUに入室した。表面冷却と血管内冷却によって体温は37℃台に下降した。 既往歴:特記すべきことはない。 身体所見:ICU入室時、ジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-20。体温37.8℃、呼吸数28/分、脈拍110/分、血圧94/74mmHg。暗赤色尿を1時間で20mL認めた。 検査所見:Hb16.8g/dL、Ht48.6%、Na130mEq/L、K6.5mEq/L、Cl100mEq/L、クレアチンキナーゼ〈CK〉48,000IU/L、尿素窒素60mg/dL、クレアチニン2.4mg/dL、AST〈GOT〉70IU/L、ALT〈GPT〉88IU/L。尿一般検査でミオグロビン陽性。胸部エックス線写真および頭部CTで異常所見なし。心電図でSTの変化はなく、洞性頻脈を認めた。 このときのAさんの状態のアセスメントで適切なのはどれか。2つ選べ。
解説:正解は2と3です。Aさんはマラソン中の労作性熱中症から、骨格筋が広範に壊死する横紋筋融解症を合併している状態と考えられます。CK 48,000IU/L(基準値約60〜250)と著明高値、ミオグロビン尿陽性、暗赤色尿はいずれも筋肉傷害の所見です(選択肢2)。また、筋細胞の崩壊により細胞内K+が血中に流出し、K 6.5mEq/L(基準3.5〜5.0)と高カリウム血症を呈しており、致死性不整脈(心室細動・心静止)のリスクが高い状態です(選択肢3)。Hb・Htは基準値以上で貧血はなく、血圧も収縮期94mmHgで末梢灌流も保たれているため心原性ショックとは言えず、乏尿(20mL/時)と横紋筋融解に対しては利尿薬ではなく大量輸液が第一選択となります。
選択肢考察
-
× 1. 貧血である。
Hb16.8g/dL・Ht48.6%はむしろ正常上限〜やや高値。脱水による血液濃縮の可能性はあるが貧血ではない。
-
○ 2. 筋肉が傷害されている。
CKが48,000IU/Lと基準値の100倍以上、AST・ALTも上昇、尿中ミオグロビン陽性、暗赤色尿は全て横紋筋融解症を示す所見。労作性熱中症の典型的合併症である。
-
○ 3. 致死性不整脈が出現しやすい。
K 6.5mEq/Lの高カリウム血症があり、心室頻拍・心室細動・心静止といった致死性不整脈の危険が高い。心電図ではT波増高、QRS幅広、P波消失などの変化にも注意が必要。
-
× 4. 心原性ショックを起こしている。
ショックの診断基準(収縮期血圧90mmHg未満、乏尿、意識障害、末梢循環不全)のうち血圧は94mmHgで基準未満ではない。また既往歴なく、心電図にST変化もないため心原性ショックとは判断できない。
-
× 5. 利尿薬の使用が必要な状態である。
熱中症による脱水+横紋筋融解症が進行中。大量輸液によりミオグロビンの尿細管閉塞を予防することが第一選択で、利尿薬の使用は現時点では適切でない。
熱中症は重症度Ⅰ〜Ⅲ度(旧Ⅰ〜Ⅳ度)に分類され、Ⅲ度は中枢神経症状・肝腎障害・凝固異常を伴い集中治療を要する。労作性熱中症では横紋筋融解症を高頻度に合併し、ミオグロビンが尿細管を閉塞して急性腎障害(急性尿細管壊死)を引き起こす。治療は(1)速やかな冷却、(2)大量輸液(生理食塩水で尿量2〜3mL/kg/時を目指す)、(3)高カリウム血症への対応(グルコン酸カルシウム・GI療法・重炭酸Na・利尿薬・透析)、(4)必要に応じて持続的血液透析。尿アルカリ化(重炭酸Na)によりミオグロビンの溶解性を高める治療も併用される。
労作性熱中症から横紋筋融解症を合併した症例のアセスメント。検査値からCK高値・ミオグロビン尿・高カリウム血症を読み取り、筋傷害と致死性不整脈リスクを判断する。
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